まっすぐな道


車はアスファルトの上を走る。
あまりスピードを出しすぎても怖いし、
やっぱりここにも雨がしとしと降っているし、
スリップは怖いし、
フロントが見えなくなるのも怖い。
ほどほどのスピードで、まっすぐの道を走る。
本当にまっすぐで、
雨がなければずっと遠くまで見通せるだろうと思わせた。
道に沿って、家らしいものが続いて建っている。
青白い歯車が見える。
確か労働者階級だっけか。
ネジはネジなりに考える。
この外の階級は中央に来たけど認められていない人で、
内側に来たら、労働をする階級として認められているわけだ。
それで、認められたら喜びの歯車が使えるわけだ。
やっぱり申請とか、いろいろあるんだろうか。
ネジは改めて外を見た。
いろいろなグラスの町を見てきたけれど、
中央だからといって、とにかく恵まれているというか、
裕福な印象は受けない。
先ほどの外より、歯車が使えている分ましかなと思わせる。
灰色の建物が並んでいる。
イメージとしては、生きることに精一杯で、余裕がない感じ。
大きくは外れていないだろうと思う。多分。
ここから内側だと、商業者階級で、宿があるとすればそこだろう。
労働も商業も大事なのになんで分けているんだろう。
しかも階級なんて言葉をつけて。
「サイカぁ」
「どうした」
「中央の階級って、なんであるの?」
ネジはストレートに聞いてみることにした。
疑問をくすぶらせていてもしょうがない。
「それがやつらの理想だからだ」
「なんかやだな、そういう理想」
ネジの思ったままだ。他意はない。
「中心から順に、中心、特権階級、上流階級、研究者階級、衛兵階級…」
「衛兵はトランプ?」
「そうだ、そこからまた外側に、中流階級、商業者階級、労働者階級、外、だ」
「ふむふむ」
ネジはネジなりにイメージが整う。
「トビラはどのへん?」
「特権階級だ」
「だろうなぁ」
「中心に直接壁ができるのは、特権階級の、それこそ特権だ」
「ふぅむ」
ネジは少しのため息をつく。
そんなところに行こうとしているわけだ。
ネジのわけがわからないなりに、
行かなくてはならないと思うし、
けりをつけなければいけないと思う。

解放しなくちゃ。

そろうってなにがだろう。

ネジの脳裏に何かが走った気がした。
無意識と意識の間あたり。
無意識とか夢とかで、
ネジは何か経験している。
そして、過去に何かあった。
過去をほとんど忘れているけど、
それも取り戻さなくちゃと思う。
どうすればいいのかはわからないけど、
中央の彼女ならわかるかもしれない。

彼女?
誰だ?

中央でやることはたくさんあるけど、
どれも特権階級が絡んでくる。
どうすればいいだろう。
下手すると世界が変わってしまうような気がする。
この世界はどこかゆがんでいるけど、
ネジはこの世界をどうこうしようという気はあまりない。
ただ、中央にいいイメージは持っていない。
正せる力があるとも思えない。
ネジはため息をついた。
何したいんだろう。
自分でもわからなくなってきた。

「世界を解放しろ」
サイカがつぶやく。
「世界を」
「前を見ろ」
「あ、うん」
ネジはあわてて前を見る。
スリップもしなかったし、
蛇行運転にもならなかった。
変わることのない、まっすぐな道だ。
ほっとするが、同時に疑問。
世界を解放。
サイカはそう言った。
ネジは真意をたずねようとする。
そこに、サイカからもう一言。
「夢見ている世界を、そろそろ起こしてやれ」
「夢見て?」
「彼女は夢を見ている」
「彼女」
「起こしてやろう」
サイカは無表情だったが、
表情のかけらがあるような気がして、
ネジは思わず探そうとしてしまう。
「前を見ろ」
「あ、ごめん」
ネジはあわてて前を見る。
中央の変わらぬまっすぐな道がそこにあった。


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