闇の気配


ネジは考える。
人が死んでほっとくと腐る。
腐るのは罪人。
弔いの銃弾があれば、
死んだそのときに涙に返せる。
まずここまでは間違いない。

そして、リューズというものを、はずすということ。
はずして薬を使えば夢に逃げたままになれるらしい。
今回の子どもは、
はずされた苦しみで夢に逃げた、と。
逆だなぁとネジは思う。
上流階級がどんなことをしているのかは知らないが、
苦しませちゃいけないよなぁと思う。

大通りを車は走って、ゲートまで行く。
先ほどの男がゲートの前に立っている。
雨の中ご苦労様だ。
「スキャン用紙は確認してあります、どうぞ」
ゲートが開く。
ネジは軽く礼をすると、
アクセルをゆっくり踏んだ。

ゲートを出ると、
にぎやかな通りになった。
確か商業者階級だったか。
「よそのグラスの一般人は、許可が得られればここまで入れる」
「ふむ」
ネジはうなずく。
ここから内側は、特別な許可でもいるのかもしれない。
「サイカぁ」
「どうした」
「リューズを取ったあとの薬は、ここで手に入るの?」
「商業者階級あたりで流通しているものは、粗悪なくせに高い」
「ふぅむ」
「あの状態で生きるためなら、もっと内側に行かないといけない」
「どのくらい?」
「研究者か、その次の上流までだな」
「そうなんだ」
サイカはうなずく。
「リューズをはずすのは簡単だ。そのあとを維持するのが大変だ」
「そんなに簡単なの?」
「生体管理師のほうが難しい。時計をいじるのは、少し学べばできる」
「ふぅん」
「それで、闇というものが出る」
「やみ」
おじさんがいってたなぁとネジは思う。
「闇時計技術師。安価でリューズをはずしたりする」
「リューズだけ?それに、よそのグラスでは聞かなかったよ」
「リューズはずしは、中央のあたりの流行だ」
「ふぅん?」
「闇は、安価でリューズをはずしたあと、維持の薬を売りつける」
「わかりやすいね」
「労働者階級では、到底維持は不可能だ」
それでもあの女性は、どうにかするといっていた。
あてがあったんだろうか。
ないとネジは思う。
闇に何か吹き込まれて、
できると思っていたんじゃないかなと思う。

「もともと闇という言葉は」
サイカがついでのように話し出す。
「グラスシオンの蔑称だった」
「ひどい言葉だったんだね」
「下手に技術を持ったものを、みんな闇にしていた」
「グラスシオンいいところなのに」
ネジは思う。
どこのグラスもすばらしかった。
「今では闇といえば、中央が認めていない技術者をまとめたものになっている」
「いっぱいいるの?」
「中央には、あふれんばかりだ」
「ふぅん」
中央が抱える闇。
ネジはなんとなくではあるが、
中央がいろいろゆがんでいるような気がした。

にぎやかな通りを走る。
大通りには店が並んでいて、
いろんなものが売られているらしい看板がピカピカ光っている。
お客を呼び込む声が大きく。
ネジは一つ一つ見てみたいなぁと思った。
何もかもが新鮮に映る。
青白い歯車が、どこもそうであるように店のそばにある。
ああ、喜んでいるんだなとネジは感じる。

喜びに満ちた世界。
リューズをはずす、闇。
ゆがんでいると思う中央。

「まずはゲートあたりで宿のことを聞こう」
「うん」
ネジは車を走らせる。
にぎやかなお店が、どんどん後ろに後ろになっていく。
相変わらず中央の道はまっすぐだ。
向こうからゲートがやってくる感じがして、
ネジはスピードを下げて、ゲートの前に止まる。
青い服を着た男が出てくる。
サイカは窓を開けると、
「ゲートは明日通る。宿を教えてもらえると、ありがたい」
男は、一応スキャン用紙を求め、
そこにサインをする。
そして、規格としては同じくらいの宿をいくつか教えてくれた。
サイカは礼を言い、ネジはぺこりと頭を下げて、
宿へと向かった。


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