いつもの規格


ゲートで教えられた宿に向かう。
にぎやかな商業者階級の町。
外や、労働者と違い、活気がある。
今までいろんな町を見てきたけれど、
そのどれもの、いいところを合わせたような活気だ。
ネジは車を走らせる。
「あそこだ」
サイカが指示を出す。
ネジは雨のまだ降り続く中、
じっと窓の外を見る。
確かに、宿っぽいところが見える。
「駐車場あるかな」
「おそらく」
ワイパーが雨をぬぐっていく。
見通しがあまりよくない中、
車は宿に向かってとろとろ走る。

駐車場に車をとめ、
荷物を一応降ろす。
荷物は驚くほど少ない。
古い思い出は置いていくもの。
それでも捨てきれないものを持ってきた。
予約は取っていないが、
宿でツインの部屋を取る。
ベッドが二つ。
男二人にはそれでいい。
下手にシングルを二つ取るよりも、ちょっとだけ安上がりだ。

部屋に入り、
荷物を置く。
ネジはあちこち見て回るけれど、
世界中で統一された規格の宿、
目新しいものはない。
一応念のために手を洗い、
雨でぬれた聖職者の衣装を脱ぐ。
外出するなら、いくつか前のグラスで黒いスーツを買ったはずだ。
とりあえず、軽装になったネジは、
荷物から地図を取り出す。
ぱらぱらとめくり、今までたどってきたところをペンでなぞっていく。
中央の地図もある。
「転送院はどこ?」
ネジはサイカにたずねる。
「南にある。それだ」
「このまっすぐをきたの?」
「そうだ」
言い残してサイカはシャワーを浴びに行ってしまった。
ネジは一人でうなずき、
まっすぐの線を書き入れる。
ネジはぱらぱらと地図を見る。
今までたどってきたもの。
中央が悪いとか、
大戦でおかしくなったとか、
歯車がいいのか悪いのか。
そういう考えるものがいっぱいあった。
サイカは教えてもくれたし、はぐらかすこともあった。
たまには自分で考えろってことかな。
ネジはそんなことを思う。

そして、ネジはネジなりに考える。
サイカの左手でいけるのは、
研究者階級まで。
ネジが目指すところは、
多分中央の中央で、
そこに入るには…鍵言葉。
そういうものが必要のような気がする。
あくまで気がする。
そして、目を覚まさせないといけない。
サイカがいってた。
彼女は夢を見ている、起こしてやろうと。
多分中央の中央に、あるのだ。何かが。
彼女というもの。
そして、歯車の中央がなんとなくあるような気がする。
多分あるんだろう。

「あがったぞ」
サイカがバスローブ姿で出てくる。
入れ替わりにネジがシャワーを浴びにいく。
いつもの宿のいつものシャワー。
海のにおいもしなければ、
暗がりに鉱石があるわけでもない。
味気ないかもしれない。
けれど、規格としては一緒だ。
同じ程度の宿だ。

ネジはぐるぐる考える。
どうやったら中に入れるだろうとか。
追われているんじゃなかったとか。
今まで出会った人たちとか。
ざあざあシャワーで流していく。
まとまらない。
どこかに、うまいこと、つながるものがあるはず。
ネジはそれを見つけ出せない。

リューズ。
ネジは不意にその単語を思い出す。
それがあればぜんまいに干渉できると、
サイカは言っていなかったか。
世界も時計の仕組みで動いているような気がするし、
それなら世界のリューズがあるはず。
いいこと思いついた気分で、
ネジは頭をわしわしと洗った。

「あがったよ」
ネジは頭に雫を残したまま、バスローブを羽織って出てくる。
サイカがつかつかと歩み寄ってきて、
無言でネジの頭を拭く。
「頭を拭けといつも言っているのが、わからないのか」
「んー、なんか思いついたから」
「思いついた?」
サイカがたずねる。
「世界のリューズで、なんか干渉できないかな」
ネジとしては、とてもいいことを思いついたつもりだった。
しかし、サイカの反応は、芳しくなかった。
「世界のリューズは失われている。また探すのは困難なことだ」
やっぱり思い付きじゃどうしようもないか。
ネジはちょっとがっかりした。


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