まとまらない
髪を拭いてもらって、
ネジの赤い前髪がしっとりおりる。
いつもこの髪で顔を隠しているから、
目立っているとしても、隠している方が落ち着く。
指でもてあそび、
また、たらす。
前髪はいつものように素直に従った。
世界の歯車といいリューズといい、
世界は欠けているものばかりだなと、ネジは思う。
確か、世界の歯車が欠けているといってくれたのは、
サイカなんじゃないかと思う。
どうにも頭がごちゃごちゃしてかなわないけど、
多分公爵夫人の言っていた、
怒りの歯車も、世界から欠けている。
世界は喜びだけで回っている。
そして、あそこには壁。
よくわからないけれど、
うっすら覚えているような覚えていないような場所。
サイカは特権階級のトビラが壁を作ったといっていた。
ということは、あそこは大事な場所。
説明された気もするけど、
端から忘れている。
忘れちゃいけないのに。
彼女のこととか。
彼女?
誰だ?
ネジは頭を振る。
情報がまとまってくれない。
みんな部品みたいだ。
つながっているのに、
あるべき場所に落ち着いてくれない感じだ。
あるべき場所はどこだろう。
ハリーの言うように、そろうのだろうか。
ハリーは言ってた。
今度こそそろうと。
みんな中央に向かっていると。
一体何がどうなってしまうのだろう。
ネジはベッドに横になる。
サイカは椅子に座って、ラジオから音楽を流している。
「寝る」
ネジは一言そういう。
「そうか」
サイカはそっけない。
「今が何時かわかんないけど、なんか疲れた」
考えもまとまらないし、いい案も出てこない。
人間ごっことサイカが言うからには、
ネジはどこか人間でないのかもしれない。
でも、なんだか疲れた。
空腹感はないけど、
なんだかちょっと眠い。
「休め。あとのことは俺が考える」
「うん」
ネジは素直にうなずき、ベッドにもぐる。
「いざとなれば右手もある」
その言葉を、ネジはうとうとと聞いていた。
意味はよくわからないけれど、何かやるのかもしれない。
ネジは落ちていくような感じを持った。
ああ、眠りに落ちるんだなと思う。
落ちながら扉を開いていく。
なぜ扉が開くのか。
鍵言葉だから?
鍵言葉ってなんだろうとか考える。
その間に、ネジは空間に出る。
ネジの意識が切り離されている、あの空間だ。
夢の中の空間。
ネジは不意に、夢見て腐ることを思い出す。
なんだか、子どもが腐っていた。
あれはよくないなと思う。
この空間は夢で、
ネジも夢を見すぎると腐るのだろうか。
いやだなと思った。
空間の中は、やけにはっきりしてきている。
高い壁が遠くに。
あれは、あれだ。
ネジの中では代名詞で通じる。
あれのなかに彼女がいて、
いつか壁をどうにかしないといけない。
そして、森がある。
うっそうとした森がある。
以前より木々が綺麗になった気がする。
手入れされているのか、
増やされているのか。
この森の中には、ドールハウスがあって、
キュウがいる。
ネジはテクテクと森に向かっていった。
曖昧に空間に、
はっきりと森ができている。
キュウがいってた。
森はトビラが作ったと。
ネジはうっそうとして明るい森を歩く。
そんな風に作られているのかもしれない。
さわさわなる音まである。
遠く遠くで誰かがはしゃいでいるような声が聞こえた気がした。
何でそんなものがと思って耳をすませたが、
気のせいだったらしく、もう、聞こえなかった。
ネジはドールハウスの前までやってくる。
ノックをする。
「はーい」
ドアが開いて、キュウが顔を出す。
「また来てくれたのね、うれしい」
キュウは人形のような顔に満面の笑みを浮かべた。
「近くまで来たもので」
ネジはそんなことを言う。
「へんなの」
キュウはころころと笑った。