問題と答え


外は雨が降り続いている。
雨は無意識に作用するなんて、
サイカが冗談飛ばしたこともあった。
よくわからないけれど、内側に雑音みたいなのはある気がする。
風通しが悪くなった感じはする。
何かが閉じ込められて、外に出られない感じがする。
それは、今のネジ自身だろうか。

ハリーが影の中に消えて、
ネジはベッドの端に座っていて、
ぼんやり考え事をしていた。
部品がそろうこと。
神様と楽園。
紺碧の空。
青い空が懐かしいなと、ネジはなんとなく思った。

ネジはベッドに転がった。
少しだけベッドがきしむ。
統一規格のもとだから、
そんなにひどいベッドではないはずだ。
ネジは仰向けになる。
天井は白い。
昼夜かまわず明かりがあるらしい。
雨が降っていて暗いからだろうか。

本当の喜びってなんだろう。

「それで、これからどうする」
サイカがたずねてくる。
椅子から動こうともせず、
音楽を聞いているついでのように。
「もう少し中央のことを知りたいな」
「あまりいいものではない」
「そうなの?」
「中心に行くほど、ひどいものだ」
サイカはいつものような調子で言っているらしいが、
少しだけ嫌悪がにじんでいる。
「ボルテックスは特権階級にいた?」
ネジの記憶が、ポンとそんなことをはじき出す。
「…どこで聞いた」
「キュウからだと思う」
「キュウ、か」
サイカの口元が、少し表情を作る。
笑みに似ているような、そうでないような気がする。
「おかしな名前だよね、キュウってさ」
「クエスチョン、だな」
「くえすちょん?」
「対応するのは、エーで、アンサーだ」
「ああ、なるほど」
ネジはネジなりに納得する。
キュウは問題で、求めているのは答えなのだ。
なら、何を求めればいいのだろう。
「うーん、キュウはあの空間にいるくらいだもんなぁ」
「答えがほしいか?」
「うん、問題だとわかったら、答えを求めてみたいよ」
「数学には解なしというのもある」
「かいなし?」
「どうしてもこの問題の解はないというものだ」
「でも、キュウにはエーがあるはずだよ」
「いや」
サイカは言葉をさえぎる。
「問題と答えだけでは、ないかもしれない」
「それじゃなんなのさ」
「さぁな」
サイカはまた腕を組んで、黙ってしまった。
何か思うところがあるのに、言いたくない感じ。
わかっててやっているのが、ネジとしては、ちょっと腹立つ。

沈黙と音楽。
サイカは目を閉じている。
どこかのグラスのときに忍び込んだ、
眠るサイカとはまた違う、目を閉じたサイカ。
アリス。
あのときのサイカの寝言。
アリスも綴ればエーから始まるかな。
ネジはそんなことを考える。
問題を解いていった答えが、
エーであるアリスなのかなと思う。
それだけでおしまいだろうか。
まだ何かある気がする。
歯車もリューズも欠けた世界。
部品をそろえて組み立てて、
問題を解いて、壁を壊して、

彼女を解放するんだ。
夢見るぜんまい。

たくさんの部品。
少ない記憶。
組み立てるのは誰だろう。
それこそ神様なのかもしれない。

思い出せないことがいっぱい。
わからないことがいっぱい。
中央のことを知りたいというと、
サイカはひどいものだという。
「サイカぁ」
「なんだ」
「中央ってどのくらいひどいの?」
サイカは少し沈黙した。
「たとえば、みんな腐ってるの?」
ネジはそんなことを言ってみる。
根拠が何にもないわけではない。
上流階級は夢見て腐るのを薬で止めているという。
あの子どもが腐っているように、
腐るのが日常的だったらと思った。
「闇は横行している」
「やみ」
闇時計技術師。説明だけは聞いたことがある。
リューズを安価ではずして、
高い薬を売りつけるという。
「上流階級は、それが買えるから始末に終えない」
「そうなの?」
「中流階級で片鱗は見れるだろう」
サイカがちらりとネジを見た。
「いくか?」
ネジはうなずいた。


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