プライドの階級


戻ってこれるように宿に荷物を置いて、
ネジとサイカは車に乗って、
次のゲートを目指す。
雨の中、車は安全運転で走る。

「商業者階級の次が、中流階級だ」
サイカが説明する。
ネジはワイパーを動かす。
ちらちらでも雨がガラスにつくと、
見えにくくてしょうがない。
「一般的に、よそのグラスのものは入れない」
「商業者階級までなんだね」
「そうだ、それで問題がない」
「なるほど」
ネジはうなずく。
「ここからは、資格を持ったものか、生粋の中央人がいる」
「ちゅうおうじん」
変な言葉だなとネジは思った。

商業者階級出口のゲートにやってくる。
青い服の男が、やっぱり番人をしている。
サイカは慣れた手つきでスキャン用紙を出す。
「確認します」
男は雨の中スキャン用紙を持って、詰め所みたいなところでサインをする。
「研究者階級までいかれますか?」
「いや、今日は中流階級まで。あとで戻ってくるだろう」
「お勤め、ご苦労様です!」
男はびしっと背をまっすぐにして、
それこそ直立不動になって言う。
サイカはうなずく。
「いくぞ」
サイカがネジに指示を出す。
ネジはゆっくり車を走らせ始めた。

「サイカ、えらそう」
ネジは車を走らせながらつぶやく。
「彼らのような番人にとっては、研究者は上の存在だからな」
「なんかそういうの好きじゃないな」
ネジが不満を漏らす。
「言えるだけいい」
「そうなの?」
ネジは意外なことを聞いた。
「上がえらそうだと、階級が嫌だと、言えるだけいい」
「ふぅん?」
ネジにはよくわからない。
「同じ階級で嫌なやつがいたらどうする?」
「なにそれ?」
「中流階級の中でも、格付けがなされている」
「うわ、嫌な感じ」
ネジは運転しながら答える。
なんか嫌なところに来たなぁと。
「それは、中流階級で自発的に出てきたことだ」
「自発的に、かぁ」
「上流には届かない。でも、プライドはある」
「ふむふむ」
「その中で、いかに上にいけるか。そういうことをここの連中はしている」
「どういうことをしているの?」
「じきに見えてくる」
サイカはそういう。

ネジはいつものように、車を走らせる。
中央のまっすぐな道だ。
確かに中流階級だけあり、
今まで見た中央より、少しだけ建物が大きい。
雨が降っている所為か、灰色の印象はぬぐいきれないが、
壁は少し高い塗料でも使っているのか、
白が主張し始めている。
何が見えるんだろうなぁと、ネジはちょっと注意しながら運転する。
そもそも、自発的に格付けをするって言うのがあまり好きじゃないけど、
それで何が出てきたのかは気になる。

「少しスピードを落とせ」
サイカが指示する。
「うん?」
「左の歩道に男がいるな」
「んー?あ、いた」
雨の中、男がいるのが見える。
「少し左に寄せれば、中流階級特有のものが見れる」
「うん?わかった、寄せるんだね」
ネジは徐行しつつ、車を左に寄せる。
歩道に乗り上げはしないが、ネジは男を見るため、静かに車を停車させる。

男は雨の中、上を見ている。
思い詰めた目をしているなと、なんとなくネジは思った。
男は口を開いた。
「カラス!」
一言、大きく叫んだ。

ネジはその意味がわからない。
サイカにたずねようとして、
サイカがまだ外を見ていることに気がつく。
何かあるのだ、これから。
ネジもじっと外を見る。
やがて、ぶぅんぶぅんという、雑音のような音が聞こえてくる。
どこからだろう。
車の中にいる所為か、どうもよくわからない。
「上だ」
サイカが教えてくれる。

ネジはじっと男のほうを見ていた。
雑音に混じって、何かが上からやってくる。
ぎっちらぎっちら。ぶぅんぶぅん。
おりてきたのは、機械のような箱のようなものだった。
組み合わさって人型のようになっている。
真っ黒だ。
「カラスロボットだ」
「からすろぼっと?」
ネジはじっと男とカラスロボットを見た。


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