カラスロボット


ぎちぎち。ぶぅんぶぅん。
空中で、カラスロボットがなっている。
男は雨の中、傘もさしていない。
ネジとサイカが路肩にいることも知らないようだ。
「わたしの」
男が口を開く。
「私の評価を教えてくれ」
カラスロボットがうなる。
ぷすんぷすん。きちきちきち。
「評価の集計をしています。評価の集計をしています」
無機質な声でカラスロボットは繰り返す。
「評価が出ました」
「どうなんだ、教えてくれ」
「前回より5ポイント落ちています」
「そんなに、なぜ」
「プラス評価もありました。しかし、マイナス評価が上回っています」
「私は尽くしてきた。みんなそろそろ、わかっていいはずだ」
カラスロボットは無視したらしい。
それとも、それに答える機能はないのかもしれない。
「録画があります。視聴しますか?」
「ああ、たのむ」
カラスロボットの、人型の、胸の辺りがピカピカと光る。
開いて、なにやらうっすらと光が見える。
「なんだろう」
「評価をくだした人間を記録してある。ああやって評価を見ることができる」
「ふぅん?」
外の男は、じっとカラスロボットの胸を見ている。
録画の記録とやらを見ているのだろう。
憤慨してみたり、ニヤニヤしてみたり、
そして、がっかりしてみたり。
何事かわからない人が見たら、本当にわからないだろう。
「再生を終了します」
「録画をする」
「了解しました。録画を開始します。評価したい人を入力してください」
「そうだなぁ…」
男は考え、カラスロボットの胸でなにやらいじる。
「録画を開始します」
カラスロボットが宣言し、男は深呼吸をする。
「お前は最低の人間だ。ごみだ、くずだ。よってお前の評価を10ポイント落とす」
男は一息にそういう。
カラスロボットが記録をするらしい。
ぎこぎこぷすぷすと音がする。
「続けて録画しますか?」
「ああ、もちろんだとも」
男はそうして、何人かの評価を大体下げた。
「続けて録画しますか?」
「もう、満足だよ。ありがとう。カラス」
カラスロボットは胸の光る部分をしまう。
「今回の結果をプリントします」
人型の口にあたる部分から、
紙が出てくる。
男はそれを受け取った。
「評価システムを終了します」
カラスロボットはそういうと、雨の空へと飛んでいった。

ぶぅんぶぅん。
遠くにカラスロボットが飛んでいく。

「ああすっきりした」
男は晴れ晴れとした顔で、雨の中、プリントを持っている。
そして、軽やかな足取りで、どこかへ去っていった。

「あれが、中流階級特有の?」
「そう、通称カラスロボットという評価システムだ」
ネジはよくわからない。
サイカが説明してくれる。
「声を蓄積していくことにより、本当に評価が高いものを探すシステムだった」
「だった?」
「プライドの高さで、結局足の引っ張り合いになっている」
「あの人のように?」
「大体あんな感じだと思えばいい」
「やだなぁ…」
「中流階級は、上流階級になれない」
「うん」
「だから、評価格付けが自発的に出たということだ」
「みんな嫌じゃないのかな」
ネジなら嫌だと感じる。
知らないところで評価されるなんて、嫌だ。
面と向かっていないのも、なんか嫌だ。
「評価を上げることに必死で、嫌だと考えていないのかもな」
「ふぅん」
「もしくは、下げることに必死なのかもしれない」
ネジはため息をついた。
いづらい階級だなぁと思った。
「この階級の中でも、特別なものがいる」
「格付けされてる中で?」
「わかるか?」
「うーん…わかんない」
「リューズをはずして、薬を使って腐らないやつだ」
「いるの?」
「中流階級でもわずかにいる。夢見て腐らないのは、この階級でも上のほうにある」
「そういう人は、どんな評価をされているの?」
「とにかく悪口を言わないのが評価されている」

カラスロボットは録画し続けるのかもしれない。
そして、夢見ている人には、不必要なのかもしれない。


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