めちゃめちゃ


「それで、行きたいところはある?」
ネジは車を運転して、
大通りにとりあえず出ようとする。
「とりあえずはない。宿に戻るか」
「了解」
ネジは中央の大通りに出る。
ゲートが階級ごとにある通りだ。
「あ、そういえば」
「どうした」
「ゲートを通らないで入ろうとすると、どうなるの?」
「場合によっては罪人だ」
「そうなんだ」
「たいてい感知器に引っかかる。番人が捕まえて、おしまいだ」
「かんちき?」
「そういうものがあると思え」
「ふぅむ」
ネジはいまいち納得しなかったが、
まぁ、そういうものがあるのだろうと思った。
「罪人がどんな末路をたどるか、知らないわけではないだろう」
「そうだけどさ」
「俺達も本来なら追われている」
「そうだね、あちこちで派手なことしてたし」
「それもそうだが、それだけではない」
「うん?」
ネジは疑問に思う。
派手にいろいろとやったのでなければ、
何で追われるのだろう。
というか、何で今、追われていないのだろう。
ネジの中で疑問が渦をまく。

ネジは運転をして、
サイカは新聞をたたみながら見る。
「読んでみるものだな」
「うん?」
「お茶会はめちゃめちゃ。次のお茶を所望」
「はい?」
ネジには何のことやらさっぱりだ。
「これは、尋ね人欄の一言だ」
「たずねびと」
「新聞に小さな欄を借りて、誰かを探す手法だ」
「それでお茶会?」
「差出人はネムリネズミだ」
「ネムリネズミ、トリカゴ?」
「切羽詰っているのだろうな。ネムリネズミとそのままだ」
「じゃあ、誰に向けてお茶会の言葉?」
「三月ウサギだ」
ネジはちょっとハンドルを切りそこなう。
すぐに立て直す。
三月ウサギはこんなところで名前が出ている。
「中流階級の噂話の新聞だから、のせるならここと思ったのだろう」
中流階級の人は、基本的に情勢に無頓着だと聞く。
ネムリネズミや三月ウサギのことも、わからないのかもしれない。
トリカゴはある意味、危険な賭けに出たのかもしれない。
さすがにトビラの名前が出てきたりしていたら、
それは中流階級でも、多分わかるだろうとは思う。

「さて、どうしたものかな」
サイカは新聞を手にしたまま、考える。
「三月ウサギがきっと返事を出すよ」
三月ウサギがどういったものか、ネジは知らない。
帽子屋もいて、なにやら大変らしい。
敵のような感じをネジは持っていたが、
もしかしたら味方かもしれないし、
もしかしたら、敵味方という考え方がそもそもナンセンスなのかもしれない。
「ネジ」
サイカが考えをまとめたようだ。
「うん?」
「来た道を戻ってくれ、新聞師に用事ができた」
「うん」
やっぱり三月ウサギとか、トリカゴとかが気になるんだろうか。
ネジはそんなことを思う。
「気になる?」
「それなりにな」
「それでどうするの?」
「まぁ、なるようになる」
サイカらしく、はぐらかすような、
サイカらしくなく、曖昧なような。
「なるようになるんだ」
「なるようになる。お茶会はめちゃめちゃだ」
ネジはサイカの表情を見ることができない。
車の運転中だ。
でも、ちょっと思う。
サイカはこの状況を楽しんでいるのではないかと。

ネジは新聞師の店まで車を戻らせる。
そして、サイカだけが降りて、新聞師の店に駆け込んでいった。
ネジはしばらく、エンジンを止めて、しとしと降る雨の中、
車の座席に座ってぼんやりしていた。
ワイパーが動かないので、窓はすぐに見えにくくなる。
サイカは何をたくらんでいるのだろう。
トリカゴは何を切羽詰っているのだろう。
お茶会はめちゃめちゃ。
お茶会。
キュウ。彼女。
紺碧の空。トビラのお茶。

次のお茶はどんな味だろうか。
キュウはまた歌うのだろうか。
見えにくい窓を視界に入れながら、
ネジはそんなことを考えていた。


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