プロジェクトアリス


「どうして」
ネジはつぶやく。
「どうして、時機人なんですか?」
リュウは頭をかく。
「言い出したのはトビラだ。楽園を作ろう、とな」
楽園。
どこかで聞いたことのある言葉だ。
「気がつかない管理と支配。時計と歯車はそのために必要な部品だった」
リュウの言葉にネジはうなずく。
みんな喜んでいた。
喜びの歯車で、日々を喜びで満たしていた。
「人を時機人にすることによって、楽園を作れる、トビラはそういってたな」
ネジもなんとなくはわかる。
楽園というものを見たことがないが、
喜びに満ちた世界ではある。
それは、中央が内側の時計を管理しているから。
管理や支配は、あんまりいいイメージがないけれども。
「プロジェクトアリスは、楽園を作ろうとしたのですか?」
ネジはたずねる。
「いや、永遠を作ろうとして、失敗している」
「永遠?」
「そうだな、サイカ」
リュウがサイカに話を振る。
サイカはうなずいた。
「世界は不完全なまま、回っている」
サイカは言う。
ネジはそれを聞いたことがある。
「状態としては、夢見て腐るのに似てきている」
「世界はだめなの?」
「永遠ではない」
ネジは永遠というものが、よくわからない。
首を傾げてしまう。
それでもちょっと感じることがある。
有限の命を続けていったら、
命が脈々と継がれていったら、
それは永遠という概念に似たものにならないかなと。
世界がなくなっても、
命がここにあったと。
死ぬことが永遠なのではなく、
生きることが永遠だと思う。
ネジはそう思う。

リュウがすっと立ち上がる。
「俺はそろそろ上流階級のほうにいく」
「入れるんですか?」
ネジは思わずたずねる。
記憶が確かなら、研究者より上だった気がする。
「スキャンを偽造するくらいわけないってことさ」
リュウはにやりと笑う。
「偽造したら大変じゃないですか」
「だから俺はお尋ね者のリューズはずしさ」
「どうしてはずすんですか」
「楽園で夢を見たいやつらがいるのさ」
「俺にはよくわかりません」
「だろうよ」
リュウは歩き出す。
ネジとすれ違いざまにつぶやく。
「部品はそろう。必ず」
ネジが答えを探している間に、
リュウは喧騒の中へと消えていった。

「やつは、ハートのジャックだ」
呆然としているネジに、サイカが言う。
「プロジェクトアリスの、一員だった」
「サイカも?俺も?」
「やつの口ぶりからすれば、そう思うのが妥当だろう」
「記憶ないけど、そうなんだね」
ネジはうなずく。
過去にも弔ってきた。
今もラプターがある。
「ハートのジャックはクイーンを盗もうとした」
「そうなの?」
「伝聞だ。噂とも言う」
盗むなんてハリーみたいだとネジは思う。
そういえばハリーはどうしているだろうか。
どこにでも出てくるから、追われる心配がないんだろうなと思う。

みんな追われている。
みんな隠されている。
秘密裏に中央で処分されるのかなとネジは思う。
それは嫌だから、どうにかしたいと思う。

プロジェクトアリス。
永遠を作ろうとした計画。
「サイカぁ」
「何か言いたげだな」
「上流階級までいくと、どうなるの?」
「気になるか」
「うん」
サイカはちょっと考える。
「今夜は無理だ。明日の新聞次第だな」
「トリカゴの?」
「そうだ」
サイカが新聞師に何か頼んだらしい。
その反応待ちというところか。
「宿に戻るか」
「うん、そうしよう」
二人はリュウのいた影からそっと離れる。
ネジは一度振り返る。
喜びに満ちていない、影。
この影があるから、人は喜びに身を浸していられる。

プロジェクトアリス。
ネジの思い出せないこと。
過去に隠れてしまったもの。

部品はそろう。
今度こそそろう。
そろったらどうなるのだろう。

ネジは、夢見ている彼女を起こしたかった。
それからどうしよう。
ネジは軽く頭を振って、
サイカを追った。


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