つながる記憶


キュウはネジを覗き込む。
「意識に混濁はない?」
「ないと思います」
「ここはあなたにとって夢の中だから、ちょっとおかしいところとか、ないかしら?」
「うーん、今のところは」
ネジは手を見る。
ヨハネであった頃、何人も殺してきた手だ。
ぎゅっと手を握る。
あんな思いはしたくない。

「変わった人よね、ネジって」
キュウは微笑む。
ネジはよくわからない。
「人には色彩があるんだけどね、ネジは透明なの」
ネジは首をかしげる。
何だろう、色彩?
「ネジは透明な感じなの。そんな色なの」
「サイカは?」
「白黒」
「ふぅん?」
赤い悪魔とか言われていたから、てっきり赤かと思っていたが、違うらしい。
キュウはころころ笑う。
「トビラもトリカゴも、リュウもハリーも、みんな色を持っている」
「それで俺は透明?」
「そうよ」
個性がないんだろうかとネジは思う。
それとも少し違う気がする。
「さぁ、そろそろ目覚めの時間よ」
「はい」
「できれば上流階級も見れるといいわね」
「何かありますか?」
「なにか、は」

キュウの声が遠ざかる。
ネジはいつもの空間から遠ざかる。

足元がなくなった感覚。
シーツを感じる。
手の指を親指から動かす。
動く感覚がある。
音楽が聞こえる。
もぞりと動くと、窓の外は少しだけ明るい。
「起きたか」
サイカがいる。
ラジオの近くで新聞を読んでいる。
「呼吸が沈んだときは、何かと思ったがな」
サイカの顔は見えない。
どんな表情をしているのだろう。
「過去を少し見てきた」
ネジは答える。
起き上がり、あくびをひとつ。
「戦場で時機人を殺しまくってた」
「…そうか」
「パーツっていうものがあるんだって」
「あるな」
「パーツって何?」
「部品だ」
「…答えになってない」
ネジはちょっと不満だ。
質問を変える。
「サイカのイメージが変わったのは、何で?」
「さぁな、意識したわけじゃない」
「…答えになってない」
ネジはさらに不満だ。
でも、これがいつものサイカで、
いつものやり取りなのだなと。
ヨハネだったネジは思う。
少しつながった。
過去と今が少しつながった。
ネジはそのことがつらくもあり、少しだけうれしい。

「それで、トリカゴからは何か来た?」
「カラスの便り。合鍵を使え。ネムリネズミ」
「はい?」
ネジにはさっぱりわけがわからない。
「カラスロボットに、俺の右手を使うんだ。多分トリカゴの伝言がある」
「ふぅん…」
ネジにはよくわからないが、
合鍵というものは、どうやら、サイカの右手らしい。
鍵言葉というのも関係あるだろうか。
ネジの内側に鍵言葉があると。
そんなことを言われた気がする。
「かぎ?」
「そう、鍵だ。プロジェクトにアクセスする鍵だ」
「プロジェクトアリス?」
「そうだ」
「鍵って何?」
「部品だ」
「うーん?」
ネジは考え込んでしまう。
「そろうまでは、鍵の役割を果たしている」
「むー」
わかるようなわからないような。
ネジは何かつかめそうでつかめない。

「とにかくシャワーを浴びてこい。中流階級に行く」
「了解」
ネジはベッドを出る。
そして、ちょっとだけ思い出す。
「召喚しながら運転は、面倒だもんね」
「…思い出したか」
「それで俺が運転を覚えたんでしょ?」
「大体あっている」
「そっか、それで俺運転覚えてたんだ」
ネジはなんだかうれしくなる。
「サイカの足手まといじゃないって、うれしいな」
「足手まといじゃない」
サイカはようやく新聞を折りたたむ。
「お前は切り札だ」
「切り札」
「世界がお前の答えを待っている」
「せかいが?」
ネジは鸚鵡返しに答える。
「まぁ、お前のしたいようにすればいい」
「うーん」
ネジは悩む。
そんなに大きなことが絡んでいる?
サイカは苦笑いした。
「俺の知っていることは可能な限り教えてやる。だから、道は自分で見つけてくれ」
サイカらしいような、らしくないような。
イメージは変わったけど、やっぱりサイカだとネジは思った。


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