サイカの鬱憤


車は、中流階級の出口、
衛兵階級の入り口にやってきた。
サイカがスキャン用紙を取り出そうとしたが、
「もうずいぶん使い込んだな、これを破棄して、新しいスキャンをしてくれ」
と、ゲートの番人である青い服の男に言う。
番人は了解して、スキャナを持ってくる。
ネジはどっちの手を出すのかなと見ていたが、
サイカは左手を出した。
新しいスキャン用紙が出てくる。
「間違いなさそうです。サインしますので、通過してください」
「ありがとう」
サイカは慇懃に礼を言う。

車は衛兵階級にやってきた。
あまり広くない階級らしい。
次の階級へのゲートが、
まっすぐの道の向こうに見えることは見える。
さすがにちょっと遠くではあるが。
それだけ商業者階級とか、中流階級が広かったんだろうか。
「広くないんだね」
ネジは思ったことを言ってみる。
「トランプやトランプのなりそこないが、一時的にいるところだ」
「なりそこない?」
「役人の中でも、トランプは別格だ」
「そうだったんだ」
コテンパンに叩きのめしたことを思い出す。
あれでも別格だったのか。
「まぁ、トランプがいなくなっても、なりそこないから補充。そういうものだ」
「そんなものなの?」
「階級が上がるから、なりたがるやつはあとを絶たない」
ネジはなんとなく納得しない。
「少しでも階級を上げたいやつでいっぱいだ。中央はそういうところだ」
「研究者も?」
「研究者まで極められるのはごく一部。そこから上に行くのもごく一部だ」
「特権階級とか?」
「そう、そこまで行けるのはごく一部だ」
「すごいんだね」
改めて思う。
上流階級というのは、すごいのかもしれない。
イメージの中では、
この、衛兵階級と、研究者階級に守られている形にある。
それより上の階級ということは、
一体どんな人がいるものだろう。

灰色の町を行く。
整った町だとネジは思った。
中流階級より、外側を気にしていないような気がする。
雨が降り続いていて、
ワイパーを動かしっぱなしだ。
燃料もバッテリーもあまり気にしていないけれど、
ちょっと調整大丈夫だろうかとネジは思う。
まぁ、止まったらそのときだ。

ネジはまっすぐ中心に向かって走っている気がする。
歯車動力の静かな車がいくつか走っている。
どこに行くのだろう。
ネジはちょっと疑問に思った。
「みんな普段は何しているの?」
サイカは答える。
「平和を享受している」
「なにそれ」
「平和であることに感謝をしている」
「何をしているって、それだけ?」
「そんなものだ」
「衛兵階級は?」
「罪人を武器にしたりしている。有事に備えてな」
「そんなにいるの?」
「大量にはいない。だから、何かにつけて罪人を作り出している」
「有事に備えてって、そんな有事があるの?」
「ないな」
サイカはきっぱりと答える。
「じゃあ、無駄じゃないか」
「これからある」
「あるの?」
サイカはうなずく。
「少し派手にいこうかと思っている」
「俺たち一応、トランプやっつけてお尋ね者じゃなかったっけ?」
「かまわん、ここに来たらやりたいと思っていたことがある」
「派手に?」
「罪人を武器にする施設を壊したいと、前々から思っていた」
さらりと、とんでもないことをサイカは言う。
「壊しちゃう?」
ネジも聞き返す。
「派手にいきたいな。どうも、じとじとして鬱憤がたまっていたところだ」
ネジはちょっとだけ、ボルテックスと呼ばれていた頃のサイカを思い出す。
涼しい顔して、内側にいろいろあったらしい。

サイカがナビゲートする。
大体道を覚えているようだ。
あまり広くない衛兵階級、
施設はすぐに見つかる。
かなり大きな施設だ。
サイカは向かいながら、
古い言語で唱えている。
右手は赤く輝く。

「ゼロ級物理召喚師をなめるな」

サイカの鬱憤は、実は相当なものだったらしい。


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