大爆発


ネジは施設の見える道を選ぶ。
方向を変えて、窓からサイカの右手が出るように向ける。
サイカは狙っている。
大きな施設を。
車の窓だけ開けて、宙に文字らしきものを描く。
「召喚」
そして、赤い右手が指を鳴らす。
パチンと。

一瞬の間のあと、轟音。
ゆれる、そして、熱風。
爆発。
とにかく熱風と、破壊。
何が一体どうなっているのか、
ネジには見当もつかない。
「サイカ」
「車を出せ。巻き込まれる」
「うん」
ネジは車を発進させる。
そのときに見えた。
溶岩とか言うものは、ああいうものだろうか。

ネジが車を出したその後ろで、
爆発が起きた。
ネジはどうしようか一瞬迷う。
「走れ」
サイカが指示する。
「小規模な噴火が起きただけだ。とにかく走れ」
「うん」
ネジはアクセルを踏む。
いつもよりやや強めに。
車の後ろでまた爆発。
サイカの言う噴火だろうか。
一体何を召喚したのだろう。

車は大通りに出る。
サイカは涼しい顔をしている。
「サイカぁ」
「どうした」
「すっきりした?」
「さぁな」
サイカははぐらかす。
サイカがボルテックスでも同じ事を言ったのだろう。
「少なからず混乱しているうちに、上流階級まで行く」
「研究者階級も突破するの?」
「火山を召喚したとなれば、混乱だ」
「火山…」
「大地の爆発エネルギーだ」
「そんなもの召喚したの?」
「ゼロ級物理召喚師をなめるな」
サイカは言う。
ボルテックスと同じことを。

「ゼロ級には、召喚制限がない」
「ならなんで今まで黙っていたの?」
「混乱を作るような気がした」
サイカはそう言う。
確かに火山を召喚して破壊しつくすとか、
混乱のきわみだ。
召喚制限がないとはいえ、
一体どこにそんな鬱憤をためていたのだろう。
そして、意図的にものすごい混乱を起こす。
サイカは一体何者なのだろう。
ネジをどこに導こうとしているのだろう。

ゲートには、所在無さげに一人だけ男がいた。
「研究者階級にいきたいのだが」
サイカはいつもの顔で言う。
「許可証はありますか?」
「スキャン用紙がある」
男はスキャン用紙を見て、サインする。
「何かあったのか?一人しかいないなんて」
サイカはわかっていてたずねる。
「なんだか爆発があったらしくて、みんなそっちにかりだされているんです」
「そうか、忙しいところすまなかったな」
「いえ、研究、ご苦労様です」
男にそんなことまで言われて、
ネジはなんとなく居心地が悪くなる。
むずむずする。
ここにいるこいつが火山呼んだんですよ。
なんて言ってもわからない。
ネジはとにかく研究者階級へとゲートをくぐる。

ゲートをくぐってすぐ、
研究者がばたばたとかけているのが、
大通りからもわかる。
研究者階級は、
衛兵階級よりもどうやら狭いようだ。
人がそれだけ少ないのかもしれない。
同心円だって、中央のほうが狭い。
そういうことなのかもしれないとネジは思った。

ネジのすぐ脇を、
小型の車が走り抜けていく。
ネジはあわててハンドルを切ってよける。
そこにまた、小型の車。
ブレーキをあわてて踏む。
「すみません!緊急なんです!」
小型の車には、青い衣をまとった人が、ぎゅうぎゅう乗っている。
「一体どうしたんだ?」
サイカがたずねる。
「わかりません、衛兵階級では手に負えないことがあるからと」
「トランプでも手に負えないのか」
「はい、情報が錯綜しているので、私たちも向かうところです」
「そうか」
「では、失礼します」
小型の車は、猛スピードでゲートを抜けていった。

「思い出さないか?」
サイカがつぶやく。
「何を思い出すの?」
「戦場の混乱」
ネジは記憶に刷り込まれたものを、思い出す。
「これからいく上流階級には、混乱は存在しない」
「そうなの?」
「今は、まだ」
サイカはそれだけ答えた。


次へ

前へ

インデックスへ戻る