再会


大通りを小型の車が駆け抜けていくのが見える。
ネジとサイカの乗った車は、
それらの車とは逆に走る。
「大混乱だね」
ネジはつぶやく。
「計算どおりだ」
サイカは言うが、ネジは信じられない。
なんと言うか、鬱憤爆発させただけじゃないかなと思う。
きっとまだくすぶっている。
サイカはきっと危険なのだとネジは思う。
「爆弾サイカ」
ネジはぼそっとつぶやく。
「面白い事を言うな」
「おもしろくないよ」
「まぁいい、とにかく混乱に乗じるぞ」
「了解」
ネジはアクセルを踏み気味にする。
記憶のサイカがやっていたのと同じくらいに。

大通りをまっすぐ行くと、
ゲートがある。
しかし、衛兵階級はここには入れないらしく、
何かで代用されているようだ。
「スキャナだけが置いてある。通るものすべてをスキャンする」
「俺、大丈夫かな」
ネジは不安になる。
記憶の一部を取り戻したとはいえ、
ネジが上流階級に入れる要素はどこにもない。
少なくともネジはそう思っている。
「鍵言葉を宿している。パーツだ」
「パーツ」
「それがあればどこにでも行ける」
「そうなんだ」
ネジは納得しそうになるが、
「ならなんでそれを使おうとしなかったの?」
「悪魔や死神と呼ばれたりするのが、心地いいか?」
「よくない」
「そういうことだ」
車がゆっくり通ろうとすると、
通せんぼをするように棒が横に下りてくる。
「スキャンをします」
声らしいものが告げる。
ネジはハンドルを持ったまま、ちょっと緊張する。
「スキャン終了。パスを確認しました。二名様、お通りください」
あっけなくスキャンを終える。
ネジはあたりをきょろきょろと見る。
「行くぞ」
「うん」
ネジはアクセルを踏んだ。

上流階級には、
窓のない建物と、一本の道だけがある。
建物は高くはない。
そして何より、無音だ。
「車はここまでにしておこう」
「この先には行けない?」
「特権階級と中央には、行けないだろう」
「うん、わかった」
ネジは車を路肩に寄せて、とめる。
駐車場なんてない。
そもそも、この無音の上流階級には、
動くものが何もない。

ネジは車のキーを抜く。
車を降りて、ぽんぽんと車をたたく。
「お疲れ様」
ねぎらうように。
「旅が終わったわけじゃない」
「でも、なんとなくね」
ネジは改めて上流階級を見る。
研究者階級の次に当たるだけあり、狭いようだ。
そして、雨は降っていない。
上流階級と、その次からのあたりは、
屋根がちゃんとついているようだ。
雨音のノイズさえも聞こえない。

ネジは歩き出す。
こつんこつんと歩く足音が、やけに大きく響く。
ネジは窓のない建物に手を当てる。
かすかにではあるが、建物が息づいている気がする。
気のせいだろうか?
「ネジ」
サイカが呼ぶ。
「入り口はこっちだ」
サイカの呼ぶほうへとネジは歩く。
目立たないドアがひとつ。
サイカがドアを開く。
ネジはついていった。

暗いなとネジは思った。
「明かりは?」
「ない、目が慣れるまで待て」
ネジはじっと目が慣れるのを待つ。
動いても大変だと思う。
外の明かりはまったくない。
真の闇かというと、そうでもない。
どこかの暗いところを思い出す。
「ようやくお出ましか」
聞き覚えのある声がする。
つい最近聞いた覚えがする。
「リュウさん」
ネジは声をかける。
「僕もいるよ」
僕というその声も、ネジは知っている。
「ハリーさん」
「うん、覚えていてくれたんだ、ネジさん」
「忘れるわけないですよ」
「記憶なかったくせに」
ハリーが笑う。
うつろだといっていたハリーは、おかしそうに笑う。
「トリカゴもいるよ」
ハリーが言う。
ネジは目を懸命に慣らそうとする。
やがて、ぼんやりとではあるが、
ネジの前髪の向こうに、
リュウとハリー、
そして、トリカゴと子どもを認めることができた。

「まだみえねぇか?」
リュウがたずねる。
何のことだろう?
「住人が、みえねぇか?」
ネジはじっと闇を見た。


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