再構築


エーアイは目を閉じる。
深呼吸をひとつ。
世界の中心はガラガラと崩れているのに、
ピーンと、弦を張ったように、
空気が変わるのが、ネジにもわかった。

ガラガラから、
カラカラという軽い音になり、
やがて、瓦解の音がやむ。
ネジは彼女を腕に抱いたまま、
エーアイの変えた空気を見ている。

無音。
音楽も聞こえない。

「エーアイはね、役目を持って生まれたんだ」
エーアイが説明する。
「アリスが目覚めのときになったら、包むんだ」
「つつむ」
ネジが問いかける。
「エーアイはね、世界を包みなおすんだ」
エーアイは誇らしささえにじませながら、言う。
輝きがにじんでいる。
エーアイの内側に宿っていたものが、
放たれようとしている。

「古い言葉でね、愛っていうんだよ」
「アイ」
「その意味をこめて、トリカゴが名前をつけてくれた」
「うん」
「愛は世界を包み、再構築する」
「それは…」
いいことなのだろうか、悪いことなのだろうか。
ネジは一瞬戸惑う。
エーアイはにっこり微笑む。
「この世界には、愛がなかったんだ」
「愛が」
「愛はリューズだったんだ。女王がずっと持ってた」
「ああ…」
朽ちたパーツ。
女王が宿すことに失敗した、世界のリューズ。
あれは愛を持っていたのか。
「リューズを失い、世界から愛が失われていった」
エーアイは子どもの声で、
世界のことを語る。
「愛は大切なパーツだった」
「うん」
「様々の愛が失われていって、喜びに取って代わられた」
エーアイはため息をつく。
「喜びが悪いこととは言わない。しかし、ゆがんでいたんだ」
ネジは壊れる前の世界の中心を思う。
壊れる前から、ゆがんでいた。
「世界に愛を、そして、再構築するよ」
エーアイは宣言する。

「その世界に」
彼女が言葉をこぼす。
「あなたのその世界に、地平線はありますか?」
彼女は尋ねる。
エーアイは不思議そうな顔をしたあと、笑った。
「果てがないくらい、地平線ですよ」
「果てがない?」
「よければ地平線の果てまで回ってみてよ」
エーアイは子どものように挑戦する。
「地平線の果てまで」
「愛はそのくらい大きなものなんだ」
エーアイは笑う。
彼女も微笑む。

「さぁ、愛で満たされた世界を」

エーアイは、その小さな手を掲げる。
輝きの感情が、
愛が、
太陽よりもきらめく。

輝きの中、
ネジは世界が崩壊と再生するのを感じる。
死ぬもの、生まれるもの、
プロジェクトアリスがあろうがなかろうが、
その連鎖は続いていくものだった。
それこそが永遠であり、
命であり、
世界そのものの営みというやつなのかもしれない。

「ネジ」
全方向からエーアイの声がする。
「アリスをよろしく」
エーアイの声は、輝きにとけた。

世界の中心は意味をなくす。
輝きにとけて、中心の仕組みはなくなる。
真っ白とも何色ともつかない、
何もない空間。
ネジが夢のたびに迷い込んでいた、
本来は何もない、世界の中心。
大きな喜びの歯車も、仕組みも、
もう、ない。

ネジは彼女と二人、その空間にいた。

彼女は生きている。
彼女を何と呼ぶべきだろうか。
ネジは呼びかけるのにすら戸惑う。
「ネジ」
彼女が呼びかける。
「ネジが悲しみを引き受けてね」
ネジの腕の中、彼女が笑う。
ネジはまだ、彼女をどう呼んでいいかわからない。
「好きな名前で呼んでいいよ」
彼女はネジの手をするりと抜け出す。
ひらりと舞い、
くるりとネジのほうを向く。
軽いステップ。

それは喜びの歯車を回していた、
あのときのままで。

「みんな、いるよ。会いにいこう」
「はい」
ネジは答える。
彼女は笑う。
「旅に出よう」
ネジはうなずき、彼女とともに歩き出す。


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