ずっと自由で 06


晃司は自販機の前にいた。
コーラを飲みながら宙を見ていた。
苛立ちというより、無力さを僕は感じた。
ヒデを演奏するというのに、
晃司も楽器隊も、
ヒデには全然及ばない。
あの音が出せないという苛立ち。
文芸部の僕では例えがわからない。
僕は、商業レベルの文章が書けないと言って悩むようなことはない。
でも、晃司は常に上を見ている。
夏祭りの数曲のライブで、
最高の演奏をしようとしている。
僕とは違う。
違うけど、人間すべてが同じなんて、ありえない。

 ever free 崩れそうな君のストーリー……

晃司が歌を口ずさむ。
こんなにヒデに打ちのめされているのに、
口ずさむ曲はヒデだ。
僕は晃司が泣きそうに見えた。
それこそ崩れそうに見えた。
たかがコピーバンド。
されど演奏者。
最高の舞台を作らんとするアーティスト。
僕たちの中にはヒデの魂があり、
僕たちの外には、ヒデの作り上げた怪物楽曲がある。
晃司は怪物に果敢に立ち向かう勇者だ。
心に傷を作りながら、
経験の差にどうしようもなくなりながら。
勇者晃司は戦っている。

「晃司」
僕は声をかける。
僕の方を向く晃司に、
先程のスタジオで見た強い苛立ちはない。
「変なところ、見せちまったな」
晃司はきまり悪そうに言った。
「なんか、これじゃないんだよ。ヒデの曲は」
晃司はうまく表現できないらしい。
「もっとヒデの曲にならなくちゃって思うんだ、そしたら…」
晃司がうつむく。
「晃司、聞いてください」
僕は話し出す。
晃司は僕に視線を合わせる。

「晃司の最高は、ヒデになることですか?」

僕は問う。
晃司の目をじっと見て、問う。
晃司と僕の最高のアーティストはヒデだ。
でも、晃司の演じる最高までヒデじゃない。
僕はそれが言いたかった。

晃司は僕の頭をくしゃくしゃに撫でた。
「いくぞ、とにかく練習だな」
笑う晃司はいつもの晃司だ。

 ever free 何処にfree? ever free


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