ずっと自由で 07


夏祭りの日が近づいてきて、
夏休み中の軽音部の彼らはもっぱらどこかで練習。
スタジオだったり、音楽室だったり、
彼らの軽音は爆音に近いから、
練習が限られるらしい。
空いた教室で爆音鳴らして練習してたら、
案の定、先生に怒られたり。
そんな中、僕は、軽音部の彼らの演奏を見ている。
未熟で、はねっかえりで、
何よりもキラキラしている。
この夏を、この季節を、
思いっきり走っているように見える。
率先して走っているのは晃司だ。
ヒデの曲を、晃司は歌う。
プロのヒデに追いつけるわけがない。
けれど、晃司はその歌に向かって走り、
走りながら、自分のフォームを探しているように見えた。

傍から見ている僕は、
晃司が自分の場所を探しに、
歌を通して、もがいているように見えた。
これが俺だ!
そう言いたいように見えた。

僕はどうだろうか。
こんなに一つの刹那にかけるようなことが、できるだろうか。
一瞬に生きている。
そんなことができるだろうか。

僕は、多分普通の家庭に生まれて育った。
多少母が病弱で、多少兄がまぶしくて、
多少、僕には自信というものがない。
その程度だ。
僕はそのことを、
軽音部の全力を出し切った練習の後、
くたくたになった晃司に話した。
太陽はオレンジに染まり始め、
セミが鳴いているのが聞こえる。

 割れた太陽みたいに
 飛び散った日々も

「普通なんて、ねぇよ」
晃司はそう言った。
「あるのは、誰かにとっての特別しかないんだ」
「特別」
僕は考える。
そして、
「僕にとってこの軽音部は特別です」
言ったら、晃司は笑った。
「真人、またなんか書いたら読ませてくれよ」
「ええと、大したものは書けないかと…」
僕がおろおろすると、
「俺にとってはその小説が特別なんだよ」
僕は絶句。
何にも言えない言い返せない。

普通じゃない、
特別だらけの時間。
割れた太陽が輝くような、
夕焼け空に染まる教室。


次へ

前へ

インデックスへ戻る