九龍的日常:5月8日


九龍の町の露店街。
通称ニコニコとよばれる露店街に、
ノットマンは来ていた。

露店。
粗末なものだ。
台風でも来たら吹き飛んでしまうほどの。
でも、幸いにもこの町には台風らしいものは来ていなくて、
粗末な露店は今日も何かを売って繁盛している、ように見える。
粗末な屋根、ビニールシート。そして、柱が立っているだけ。
そこに人が集い、交流や流通が生まれる。

ノットマンは、不思議なものだと思う。
この通りも、何も置かなければただの道でしかなかった。
そこに、粗末な露店を作ったら、
そこに人が集って新たな流れができる。
人のつながり。
はじまりがどうだったかなんて、
古参の住民でも覚えているものは少ないだろう。
でも、はじまりがあって、今があり、
そして、未来がきっとある。

メイニィが言っていた。
私でありながら私だけでなく、と。
メイニィは少し前に姉を探して九龍にやってきた娘だ。
見つけられたのかはわからないけれど、
メイニィは言っていた。
私でありながら私だけでなく、と。
彼女と話していると、ふっとした瞬間、
人格が入れ替わるのともちょっと違う、
空気が少し変わる感じがある。
多分その時、姉のマオニィが出てきているんだろうと思う。

ノットマンがメイニィたちを思い出したのは、
イベントの時に会えるだろうかという、ちょっとした連鎖の思考だ。
ニコニコ露店街も、お神輿が通ったり、
ちょっと騒がしくなる。
そこで彼女に会えるだろうか、という、軽い連鎖がたぶん起きた。
ノットマンはため息を一つ。
ファイアの日に会える。
そう、イベントのその日に会える。
元気にしているならそれでいいけれど、
やっぱりいろいろな人に会いたいと、ノットマンは思う。


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