九龍的日常:5月20日


鏡屋。
鏡が置いてある小さな店である。
リュイはその鏡が特別であると、エイディーから聞いた。
特別ってなんだろうか。
リュイは迷いながら、
病院の近くにある、鏡屋にやってきた。

鏡屋には先客がいた。
少女とも、女性とも、どっちとも取れる中間的な人。
何かほかのところが中間的に思えるけれど、それはなんだろうか。
「あら」
彼女が気が付いた。
「あなたも別のあなたとお話に?」
リュイは頭を振る。
別の自分はとりあえず持っていない。
九龍の町の噂で聞いた彼女かもしれない。
姉と妹が、一つの身体を共有しているらしい、
メイニィとマオニィの姉妹。

リュイは彼女たちと話してみることにした。
変人ではなかった。
普通のお嬢さんが、ちょっと変わった環境にあるだけ。
勝気なのがメイニィ、おとなしいのがマオニィ。
一つの身体を取り合うことなく、彼女たちと会話が可能なのは、
彼女たちの慣れがあるし、
九龍のみんなが、奇異の目で見ないというのもあるかもしれない。

リュイはいろんなことを経験した。
悲しいこともつらいこともいろいろあった。
でも、この姉妹はいったいどんな経験でこんなことになったのだろうか。
彼女たちのどちらも話さない。
あるいは、突然そうなったのかもしれないし、
初めからそうだったのかもしれない。
意識の双子、かもしれない。
そういうこともあるんだなと、リュイは納得する。

「リュイさんはイベント、参加する?」
「結局イベントはどうなってるの?」
「ええとね…」

彼女がイベントについて語るのを、
鏡の向こうで微笑みながら見守っている彼女がいる。
なるほど、こういう特別なのか。

一人じゃないって、不思議で素敵だ。
リュイは、そういうことが存在できる、九龍が好きになった。


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