九龍的日常:5月21日
砂場。
全てが生まれる場所。
ミスター・フーは、会場づくりの指揮をとっていた。
イベントは、作るところからイベント。
壊すまでがイベント。
砂場に何もなくなるまでが、イベント。
九龍住人総出で、イベントの会場を作っていた。
得意分野はそれぞれにあって、
それが噛み合っていびつながらも機能する様子は、
ミスター・フーでなくても、
ある種の感動を覚える。
「ミスター・フー」
声をかけてきたのは、メイニィかマオニィか。
「少し休みましょう。割と急ピッチが過ぎるわよ」
「そうかもしれないな」
フーはため息を大きくついて、
「しばらく休憩!」
と、みんなに向かって号令を出す。
みんな、気分は高揚しているけれど、
体力が追い付きにくいところまで来ているようだ。
休憩と言ったのに、
細かいイベントの打ち合わせを各々やっていて、
休んでいるのが惜しいというのが伝わってくる。
しかし、身体を休めないと、
明日の本番へとへとではよろしくない。
フーは適当なところに腰を下ろす。
隣に座ったのはメイニィだ。
「私、ミスター・フーは悪者だと思ってた」
「そうか」
「でも、この町には大きな悪者はいなくてもいいと思うの」
「そうか」
「ビビアンなんて、暗殺標的いなくなったら、元気になって」
「彼女は自由な女性だ。暗殺はむかんよ」
「うん、私もそう思う」
メイニィは笑った。
「明日は5月22日」
「記念日だよ。九龍にとっての」
「うん。いろんな人に会いたいな」
「会えるさ。望めば」
フーがそういうと、
「やっぱり、ミスター・フーは、悪人じゃないな」
「ではなんだろうか」
「ミスター・フーはミスター・フー。一人しかいない」
ミスター・フーはくっくっくと笑って、
「それは最高の言葉だ」
と、彼なりに喜んだ。
彼が一人だけであるように、
九龍は、この九龍は、ここにしかない。
明日、この九龍に素敵なことがあるはず。