妄想の海


ぶくぶくぶく…
フロッピーの僕は海に沈む。
妄想の海。
確か、僕の感覚がそういっていた。
だから多分ここは妄想の海で、
そう、友達の記録から僕はここにやってきた。
僕だけではたどりつけない、海。

「手を伸ばしてごらん」
何かの声がした。
「ここは妄想の海。どんなことだって可能さ」
手を、伸ばす。
僕に、手が。
「好きな姿になってみるといいよ。せっかく妄想なんだから」
この声は?
「妄想の海の、色のない住人というかな。そういうもの」
姿が知りたい。
僕の姿も、君の姿も。
「目を、開いてごらん。大丈夫、怖くないよ」
僕はないはずの目を開く。
目は、ある。
気がついたらあった。
目は開かれ、僕は無限の光を見る。

僕を守るように包むように、
大きなマンタが上を行く。
色はないけれど光を屈折させてきらきらしていて、
ああ、さっきの声は、と、納得する。
ジンベイザメも上を悠々と泳いでいる。
周りにも光を屈折させる、
色のない魚がきらきらと。
「君は人に似ているね」
マンタの優しい声。
「ここは妄想の海。ここの光はみんな妄想から生まれるんだ」
きらきらしているのが、みんなそうなんだろうか。
「どんな物事からも、妄想は生まれる。小さくてもいいんだ」
「それは、それは」
僕はしゃべろうとする。
声があっただろうか。
気がついたときには、僕は泡と一緒にしゃべりだしていて、
ぼこぼこと泡を吐き出しながら、
「それは、僕も妄想を持てること?」
そう、問う。
色のないマンタが多分笑った。
「君からも妄想は生まれる。君も妄想をもてる。そして」
「そして?」
「小さいと思っていても、君には世界がある」
「僕に、世界なんて」
僕は自分を思い出そうとする。
僕は、小さな…
「そこまで」
マンタがさえぎった。
「今、君は妄想をもてる。君は何にも縛られていない」
妄想の海が流れる。
あたたかな流れとなって、
僕をあるべきところに多分導こうとしている。

「君の名前はフロッピー。妄想の海を行くフロッピーだよ」
マンタの気配が遠くなる。
「世界を見ておいで。フロッピー君」
僕はゆらゆらと海を流される。


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