ネットワーク


小さな僕は、海の流れに流され、
くるくると転がるように。
周りの光が乱反射。
妄想が光になるのなら、
これだけの海の妄想って、なんてすごいことなんだろうかと思う。
色のない魚が泳いでいる。
無限の妄想の中、僕もその一部になれるのだろうか。
僕は宙返りをするような気分。
僕は多分、
記録媒体としての僕でありながら、
今、ひとつの存在としての僕であり、
また、無限にもなりうる僕なんだと思う。

僕は、くるくる回る海の中、
規則的な模様があるのを見つけ出す。
それは、呪文の書かれた魔方陣のようだと僕は思った。
僕がくるくる回ることをやめたら、
結構節操なく、その魔法陣の呪文が、伸びているようだと思った。
僕は見上げる。
上だと思ったから見上げたけど、
どうも上下右左おかしくなっているのかな。
「迷い込んだフロッピーって、あなた?」
女の人の声がした。
海を舞うように、中国衣装をまとった女性。
「あたしは電脳娘々(でんのうにゃんにゃん)」
「僕は、フロッピーです」
「うん、フロッピーならネットには親しみやすいよね」
娘々は一人で納得した。
「ネット?」
「うん、ネットワーク。人の縁が電子的につながっているもの」
「えん?」
僕は尋ねる。
「多分ね、フロッピーだけでは、限界があるの。突破するには何かの縁をつながないとダメ」
「僕、友達って…」
「友達か、うん、それいいね」
娘々の声はうれしそうに。
「このネットワークは、人の縁から人の縁へと飛べる力を持っているの」
「妄想の海からここに来たのは…」
「イメージが隣だからじゃないかな?」
「隣?」
「あー、うん、説明しづらいけど…」
娘々は言葉を選ぶ。
わからない僕にも伝わるようにと。
「妄想も、ネットワークも、想像がつながらないとその力を発揮できないの」
「想像」
僕は反芻する。
「だから、性質が似ているって言えばいいかな。だから、イメージが隣」
「うーん」
わかるようなわからないような。

「ここからはどこにいけますか?」
僕は尋ねる。
「ネットワークは広いからなぁ…どこにだってといえるけど」
「けど?」
「見えないものを見ようとしてみない?」
電脳娘々はくすっと笑った。
呪文の書かれたネットワークが、僕を包む。
「転送」
電脳娘々の声は、一瞬で遠くなった。


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