見えない星
僕は、ぽいと外に出された感じがした。
多分目をぎゅっと瞑って、
落下。
ぼすっと何かにひっかかって、
僕は、痛くはないけれど、やれやれと思う。
目を開けた。
上には、小さな光がいくつもいくつも。
うっかり数えそうになってやめた。
目が慣れるほどに、すごい数が見えていて、到底無理だ。
「星じゃよ」
僕の落っこちた近くで、しゃがれた声がする。
「あの光は星じゃよ」
「ほし」
「その数は無数じゃ。意味を求めるも無、意味をこえた無なのじゃ」
「わけわかんない」
僕はそんなことをいってみる。
しゃがれ声は笑った。
「訳がわからんがいい。すべては無じゃ」
「そうなのかな」
「全てがあるは、無。同じなのじゃよ」
しゃがれ声はそういう。
僕は起き上がって、しゃがれ声の人を見ようとする。
ちょっとだけ高くなったそこに、おじいさんが一人。
「わしは星見をしている」
「ほしみ?星って、えっと、意味ないとか」
「そう、意味のないことをしておる」
おじいさんは笑う。
「星は過去も未来もうつしてはおらん」
「じゃあ、なんでここにいるの?」
「ただ、星が美しいのじゃ」
おじいさんは空を見上げる。
「無数の光が、人なんぞの意味をこえて輝く。美しい」
「うん」
僕も空を見る。
瞬く小さな星は、何もうつしていないというけれど、
小さなものがある、それだけで意味があるような気がする。
小さく、本当に小さくなって、見えなくなっても。
見えないものも、ある。
この空に輝く星のなか、
見えない星もきっとある。
きっと、僕みたいに小さなものも、空のどこかにあるんだろうなと。
僕はそう思う。
見えないものを見ようとする。
僕はそんなことを思う。
「見ようとしても仕方のないことじゃ。感じればそれは全てじゃ」
おじいさんは多分全部わかっている。
「意味のないことも、全部まとめて世界じゃ。有と無は表裏一体じゃ」
僕の引っかかっていたそこが、どうやら枝らしいのだが、
不意にしなって、僕は落ちる。
おじいさんに挨拶も言いそびれたと、あとで思った。