花のあるところ


風に乗る。
突風は僕の周りをごうごうといっている。
すばらしい。
世界がこんなに遠くまで見えて、
まだ知らないことが山ほどあって、
僕の中を様々の物事が駆け抜けていく。
僕の小さな容量では到底追いつかない物事。
記録しきれない、無限のこと。
僕はフロッピーという僕に、何を満たすべきなんだろう。
小さな僕には、何ができるのだろう。

いい天気だ。
空を飛ぶには抜群に気持ちのいい日だ。
この感覚も僕は記録しきれない。
どうしても記録できないことはある。
僕がどんなに大容量記録媒体でも、
全てを記録してこの風に乗る感じを伝えることは出来ない。
とても気持ちがいいのに。
それが残念だと思う。

高度が下がる。
僕はまた落ちるのかなと直感で思う。
姿勢を整え、ショックに備える。
僕だって何もわかんないわけじゃないぞ!
ふっと突風が途切れ、
僕は空中においていかれて、
また落ちる。

落下して、緑のにおいのするところをころころ転げる。
さっきの草原?
いや、なんか違う。
僕についているのは、苔だ。
そして、上を見れば木漏れ日。
下を見れば木の根。
ここは、多分森というところ。
前を見れば、輝くように咲く、一輪の芸術。
「はな」
直感で思う。これが花だと。
一輪だけ。ひとつだけ。

近づいていって、花を見たいと思った。
くすくす笑う声が響く。
花が笑っているのだろうかと僕は思う。
「私はいずれ、世界を覆う」
花が言っている。
「数限りない私になり、ありとあらゆるものを覆い尽くす」
たった一つの芸術は、
小さくか細げで、何の力もないように見える。
それでも、花は世界を覆うという。
「私は種を残せる。種は世界を流離い、私の分身を芽吹くだろう」
それは呪いのように、祈りのように、
この芸術が世界を覆うのは、いつになるのだろうか。
一体いくつの種が芽吹けば、花開けば、花は満足するのだろうか。

「私は満足を知らない。限りない欲求があるだけだ」
花は笑う。
「フロッピー。小さなお前も、満たされていない」

目がくらむばかりの光。
花も森も視界から光にとける。


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