儚くとも
とん、とん、とん。
音が聞こえる。
軽くステップを踏んでいると僕は思った。
踊っているのだろうか。
楽しそうだと僕は思った。
目も眩む光の中、誰かが踊っている。
誰だろう。
僕の手を誰かがつかんだ感覚。
そのまま後ろに引っ張られて、
僕はふらふらと尻餅をつく。
「システムに入るな」
僕は理解できないまま、頭を振る。
とにかく光が強すぎて何も見えない。
「あれは世界のシステムのひとつだ。完全なシステムだ」
「完全?」
「誰も干渉してはいけない。世界の歯車だ」
僕はなんとなく思う。
世界の歯車というのを、あのステップが回していて、
それはとても楽しいもので、
踊っているんだ。
「限りなき永遠が約束されているシステムだ」
永遠とこの声は言うけれど、
僕は違うことを思う。
脆く儚いもの。
花よりももっと儚い、永遠のシステム。
永遠が約束されていて、誰かに守られ続けるシステム。
この声の人は、システムを永遠に守り続けるのだろうか。
時間の無限を、この人は怖いと思わないのだろうか。
「言いたいことはわかる」
声が少し穏やかになった。
「世界は多分安定はしない。このシステムが儚いもののように」
「儚いのに完全?」
「完全とは常に儚さと一体だ。完全であり続ける永遠。それは…」
「それは?」
「それは、無というのかもしれない」
光の中、声の主は少しだけ悲しそうに。
「儚く崩れる果てに何もなくても、私は、このシステムを永遠に守ろうと思う」
ステップが遠くに聞こえる。
とん、とん、とん。
歯車が音も立てずに回っていて、
世界の仕組みのひとつが動き続けている。
誰も知らない世界のどこかで、
歯車を回す儚いシステムと、システムを守り続けるもの。
光の中、彼らは多分、世界の一部であり、核であり、全部だ。
「私は、世界へのある感情で動いている」
声は、言う。
「無限の感情であることはわかる。だが、その名前がわからない」
フロッピーの僕にもわからないけれど、
全てを包んだ感情というのがあるのなら、
それはこの光みたいに何もないように見えるんだろう。
無限の、なんだろう。
僕はどこか別のところに送られたらしい。
光が収まっていく。