このすばらしき世界


光はゆっくり収まっていき、
僕は違う空間に出たことを感じる。
足は地に着いていて、
風が吹いている。
いつの間にか閉じていた目を開くと、
果てなど見えない世界。
まるで全てがこの足元にあるかのような錯覚。
多分僕は山の上にいて、
今こうして、世界を見渡している。

「すばらしいと思わないか?」
僕の背中から声。
「振り返らないでくれ、姿を見せたくない」
声は、きれいな声なのに、姿は見られたくないらしい。
僕はそのまま、山から世界を見ている。
「この世界は、あらゆるところに命が満ちている」
「いのち」
「そう、限りある命が無数に。それぞれが何かを残すべく生きている」
「命って、なんだろう」
声はちょっと黙り、
「命は限りあるもの。輝くもの、そして、可能性だよ」
「すばらしいんだね」
「ああ、そりゃもう」
声はうれしそうに。
まるで自分がほめられたかのように、うれしそうに。

「むかし、さ」
声がつぶやく。
「ある人に、神様を試せば、この世界を全部あげようって言ったことがある」
「かみさま?」
「命を作る奇跡を起こす存在さ」
「その人はどうしたの?」
「神様を信じた。この世界を受け取ることはしなかった」
「そっか…」
僕はよくわからないけれど、
この広い広い世界、命が満ちている世界には、
神様を信じきった人くらいいてもいいかもしれない。
「それも多分ありなんだよ」
僕はそんなことをいってみる。
「うん、だから世界はすばらしいんだ」
声は語る。
「神様には届かないけれど、多分みんな、どこかで命のすばらしさを知っているよ」
僕はうなずく。
そろそろ答えが出るような気がする。
「君は、フロッピー」
声は僕の名を呼ぶ。
「小さなフロッピー君だ」
僕はうなずく。
僕は記録媒体で、僕はとても小さい。
世界を記録なんて出来ない。
声は僕の考えを読んだようだった。
「全て記録なんてしなくてもいいのさ」
「僕は、どうすればいいだろう」
「もう、君は答えを知っている」

声はやさしく、僕に言う。
「君は、答えを知っている」
僕の感覚は暗転した。


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