おうじさま


王子様は大人になりません。
何でも出来る王子様です。

命令をすることだってできます。
食べ物を山ほど食べることも出来ます。
疲れ果てるまで遊ぶことも出来ます。
あったかいお布団で眠ることも出来ます。
何でも出来ます。
王子様は自由です。
誰も王子様のことに、口出しする人はいません。
王子様は不自由ということがありません。
窮屈ということがありません。
どこまでもなんでもできて、
王子様はいつも満たされた気持ちなのでした。

王子様はどこにでもいけます。
この世界はすばらしくて、
笑顔に満ち溢れています。
王子様は世界を見るのが大好きです。
世界を見ていると、自然と気持ちがよくなるのです。

あるとき。
空が暗くなってお眠りの頃。
王子様のところに気配がしました。
その気配は王子様の知らないものでした。
「俺はジユウ」
気配は暗い中でそういいました。
「縛られていないで世界を見よう」
ジユウはそういって、王子様の手をつかみます。
王子様は理解できないままに、ジユウの手をとりました。

ジユウは空を飛びます。
王子様の世界がどんどん遠ざかっていきます。
幼い王子様はそれをこわいと思いました。
目をぎゅっとつぶります。
「世界はこんなにも広いんだ」
ジユウはいいます。
王子様は目を開きます。
そこには、果ての見えない世界が。
王子様の知っている世界の、何倍も何倍も大きな世界が、
そこには、笑顔だけでないことも王子様は知ります。
理解しがたいものがいっぱいあることも、王子様は感じます。
王子様は、そうしてはじめて、小さな世界にいたことを実感して、
自由でなかったことを、それでも居心地がよかったことを思うのです。

縛られていたかもしれない。
それでも、あの世界で王子様は自由だった。
世界はもっと広い。
自由でいるには難しいほど大きな世界。
王子様はジユウに言います。
「ありがとう。ぼくはこの世界でも笑顔を求めてがんばるよ」
ジユウは微笑みます。
気配でわかります。

王子様は、そうしてちょっと大人になるのです。
不自由な世界で自由を求める、大人というものになるのです。


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