邪気夜行 2の物語


それはアンテナだ。

アンテナはいろいろな電波を受信している。
下にいる人間が電波からくる何かを、テレビで見て、
笑ったり怒ったり泣いたり。
アンテナは物だからあまり考えない。
ただ、電波を受信する。

アンテナの下にはテレビがいる。
彼もまた、映し出すという仕事に専念している。
彼らはつながれているけれど、
彼らは、それを不自由とも思わず、
物らしい物であった。

人間は、古いテレビの彼をよくたたいた。
ブラウン管テレビは、たたくといいんだと、
どこで得た知識かは知らないけれど、
アンテナはそれをよいことと思わなかった。
アンテナは、静かに、怒りをともした。

「おやめ、アンテナ」
テレビがある日、アンテナに話しかけた。
「私はゴミに出されます。あなたは、怒りを鎮めなさい」
「でも」
「鬼律になってしまいますよ」

配線でつながれ、誰にも聞こえない物同士の会話は、
これきりだった。
次の日、テレビはゴミに出され、
アンテナはぽつんと残った。

鬼律になってしまいますよ。
あれだけ叩いた人間を、テレビは許そうというのか。
アンテナは知っている。
受信した電波と、テレビが映し出したものから、
世界には良いこと悪いことがあることくらいはわかった。

まだよくわからないことが多いけれど、
アンテナは、テレビに代わって、人間に罰を与えようと思った。
人間の見えないところで、
アンテナは有機的な部分を宿していく。
それは物の怪というものに近く、
あたかも、生きているように思われた。

ころさなくちゃ、ころさなくちゃ。
テレビの敵はアンテナの敵。
人間を許してはいけない。

鼻歌なんか歌いながら、部屋に人間が帰ってきた。
アンテナは、牙すら生やした物の怪の姿で、
さかさまに落ちて、
人間の眼の前に姿を現す。

アンテナには、怒りから来た火の邪気が宿っている。
あったはずの理由は、
人間を目の前にして、燃えカスになった。
あとは、この人間は敵であり、
敵を殺したら、アンテナは血まみれの墓標になる。
それだけの事実だけが残った。

それは鬼律。
アンテナの鬼律。


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