邪気夜行 3の物語


それは人形だ。

陶器でできた人形の身体に、
愛らしいレースやフリルの服。
陶器の顔はふくふくとして美しく微笑んでいて、
ただ、陶器であるが故、多少冷たかった。

女の子のもとに、人形はプレゼントとしてやってきた。
女の子は人形を壊すような乱暴な子でなかった。
よくいる普通の良い子であった。
おままごとの子ども役に、
陶器の人形を当てた。
女の子はかりそめの母親になり、
世話を焼き、ご飯を作り、子守歌を歌うのだった。

自分の子守歌で、
女の子が眠りについてしまうと、
陶器の人形は考えた。

おかあさんって、なに。

それは物が持ってはいけない考えではあるが、
陶器の人形は、少しずつ、自我を持ち始めた。
この子が、お母さん。
陶器の人形は、女の子を思う。
おかあさんは、あたたかい。

女の子は、人形遊びをやめるより先に、
重い病に倒れた。
苦しがって、いろいろなものを壊しては、
体力を消耗して、倒れこむ。
そんな日が続いた。

人形は見た。
暗くよくないものが、女の子をむしばんでいる。

ある夜。
皆が寝静まった時、陶器の人形は、よくないものと会話した。
それは邪気とよばれるものだった。
邪気は一つで消えることができない。
人形のお前がよければ、
邪気は人形に宿り、この女の子は救われるだろう、と。

陶器の人形は答える。
「女の子じゃない。おかあさんよ」

邪気は陶器の人形に宿り、
土の属性を持つ。
陶器の人形は、
自分が禍々しいもの、その姿になっていることに気が付く。
できはじめたばかりの思考は、
女の子を取り殺すとか、
家族を殺すとか、
人間の肉を食うとか、
そんなのばかりが頭の後ろがぐあんぐあんなっている。

陶器の人形は、
言葉なき言葉で、
「さよなら、おかあさん」
告げて、その家を後にした。
人形の行方は、わからない。

それは鬼律。
人形の鬼律。


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