邪気夜行 4の物語


それは電球だ。

電球はいわゆる普通の電球だ。
電源が入れば明るくなり、
切られれば暗くなる。
電球はほかの物同様、
そういったことに疑問は持たなかった。

電球は埃をかぶる。
部屋の主がそういうことに頓着しないというのもあるし、
何より部屋の主は、次の試験のことでそれどころでなかった。
人生がかかっている。
学生とかいう何とかなのか、
電球はよくわからないけれど、
電球に埃がかかっているように、
部屋の主には誇りがかかっていて、
そして、埃にまみれていた。

夜は電球の明かりのもと、
部屋の主はがりがりと何かを書いていた。
昼はどこかに出かけていて、電球はよくわからない。
でも、電球の明かりの下、
部屋の主は憔悴をしていった。

ある日。
部屋の主は、電球を消して、埃を拭った。
また、電源を入れて、まぶしさに目を細める。
「こんなに明るかったんだな」
明るい電球。
そのもとで見ても部屋の主はやつれていて、
それなのに、
目に涙と、口元に、笑み。

「ありがとうな、この明りで、がんばれた」
涙は明るすぎる電球のせいかもしれない。
ぽたぽた落ち始めると、止まらなかった。
「もうちょいがんばるから、さ。一休みしていいかな」
電球は答えるすべを知らない。
肯定も否定もできないけれど、
休んだ方がいいと思うし、
ありがとうという言葉は、電球に響いた。
それは、ないはずの心かもしれない。
やどりはじめた自我かもしれない。

電球とちょっと離れた寝床で、部屋の主は眠りについた。
電球は、電源を切られることなく、部屋を照らし続けた。
部屋の主は起きなかった。
二度と起きることはなかった。

電球は部屋の主を起さないとと思う。
これからがんばるって、ありがとうって、
この電球が明るいって、
涙浮かべて、部屋の主は、
起きなくちゃ、動いて、なんとか起こさなくちゃいけないのに、
絶望的にコードやコンセントで近づくことすらできない。

うごけ!うごけ!
電球はその場をじたばたするばかり。
そして、電球はある種の憎しみを持つ。
漠然とした強い憎しみ。
それはすべての生き物に向けての、憎しみから転じる邪気。

「これから」を持つものを、電球は憎んだ。
あの人には、これからがなくなってしまったんだ。

それは鬼律。
電球の鬼律。


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