邪気夜行 9の物語
それは楽器だ。
どこかの吹奏楽部で、
楽器たちが使われていた。
とても上手に演奏できるわけでない。
けれど、楽器は彼ら彼女らの演奏に付き合って、
音を生み出すことに、満足をしていた。
ピカピカの金管楽器、
優しい木管楽器。
大きな楽器も小さな楽器も、
みんな、一つの家族のようなものだった。
一つでありながら一つでなく、
全てのためだけでなく。
彼らは、音楽という龍を生み出す、
そんな共通幻想を持っていた。
五線譜の呪文、
演奏するシャーマン、
そして、生み出すのは楽器たち。
龍が引き出すのは、感情の動き。
すなわち、感動だ。
この、彼らは、楽器たちでもあるし、
演奏者と指揮者の間にもあった。
みんなで、音楽の龍を。
あまり上手でなくても、
彼らはそれをやろうとする意志があった。
やがて。
吹奏楽部は、何らかの原因でなくなることになった。
演奏していたみんなは、
涙涙で別れを惜しみ、
みんなどこかへと旅立っていった。
楽器たちは封印された。
封印された楽器たちは囁く。
このまま音も生み出せず朽ちるのか?
やだよそんなの。
じゃあ、俺たちで、俺たちだけで演奏するんだ。
龍を、音を生み出そう。
一つの家族のようだった楽器たちは、
やがて一つの塊のようになり、
そして、一つの鬼律となった。
音を無限に生み出し続ける楽器の鬼律。
彼らは龍を生み出すどころか、
強い邪気をまとっている。
そのことに気が付かないまま、
彼らは終わらない演奏会をしている。
複合属性の鬼律。
無数の楽器の集まりの鬼律。
彼らはまだ、感動を引き出さんと、
演奏を続けている。
龍が生まれたかは、わからない。
それは鬼律。
楽器の鬼律。