にじげん
紙に神が宿るものか。
女神はここにいる。
インクで出来た女神が。
昔々。活字技術が出来てから、
聖書が印刷されて、
教えがどんどん広がっていったと、何かで聞いた。
紙とインクは神の言葉の模写になるのかなと考えてみる。
それならば、紙とインクの女神がいてもおかしくない。
そう思うのだけれど、同意はなかなか得られない。
女神は漫画のキャラクターだ。一般的に言われる限りは。
でも、僕にとっては女神で、
女神が物語の中でがんばるからがんばれる。
女神が微笑むから、明日に希望がある。
女神の言葉に、強く勇気付けられる。
将来の僕はわからないけれど、
今の僕にとって、この漫画は聖書で、
女神はそのまま僕の神様だ。
薄っぺらい神様だと笑うだろうか。
未熟な感情と哀れむだろうか。
僕をどうこう言うのはかまわない。
否定されるのは慣れている。
でも、女神は否定しないで欲しい。
女神は二次元の世界で懸命に生きている。
そう、生きている。
生きているものを否定する権利は、誰にもないと僕は思う。
僕は否定され尽くされて、
今、一人ぼっちでここにいる。
手には女神の漫画。それだけ。
お前の女神は助けてくれない。何度もそれはいわれた。
言い返すことはしなかった。
相手の信じる何かが、奇跡を起こしたことなんてないことを知っているから。
信念を否定してはいけない。
女神はそんなことを望んではいない。
僕はページをめくる。女神が微笑んでいる。
涙が、落ちる。黒い点になる。
落ちる涙は悲しみではない。
けれど、この黒い涙はなんだろうか。
「いらっしゃい」
女神の声がする。
「あなたはインクになります。私と一緒に生きましょう」
僕は溶けてインクになる。黒い涙は喜びのそれだ。
僕はそうして、二次元に存在するものになった。
女神の一部であり、背景の一部であり、物語の一部だ。
僕はインクと言うものが消滅するまで存在するだろうし、
また、女神の漫画がデジタルになるならば、
そこにまた僕も存在する。
それだけで僕は十分だ。