怪談:かぎ


祖父の残したものはたくさんある。
書物、それをおさめる蔵、
古い家。
ちょっと広い庭。
ほかにも、土地、骨とう品、いろいろもろもろ。
まぁ、遺産相続でいろいろあったと思ってほしい。
そして僕には、鍵が一つ与えられた。
祖父の遺産は、鍵一つだけというわけだ。

どこかの鍵なのかはわからない。
祖父のかかわった建物に、
片っ端から許可を得て鍵を使ってみた。
どれにも合わなかった。
ただの古い鍵なのかな。
でも、この鍵は何かを隠している気がする。
いったいどこの鍵なんだろう。

大好きだった祖父。
妖怪とかの研究も、一人でちょっとしていたらしい。
どこにも発表することなく、
書斎で何かを書いていた。
祖父はどんな景色を見ていたんだろう。

許可を得て、祖父の書斎に入れてもらった。
そのうち膨大な本も寄付に出すという。
残念なことだと、僕は思う。

祖父の残したもの。
この鍵、そして、僕のような命。
ちゃんと孫まで命がつながっているって、すてきだと思う。

孫の僕の顔を、ふと書斎の鏡に映してみた。
いつもの僕が笑っている。
笑っている?
僕は笑っているのか?
やがて鏡像はあかんべをした。
舌に、鍵穴。
ああ、そこに、僕の、そこに。

僕は自身の舌を指でなぞる。
明らかに鍵穴。
そこに、鍵を差し込む。

がちゃり。

僕が解放される。
僕は本当に祖父の孫だったのか?
ある日宿った何かじゃなかったか。

人の真似を終わりにしろと祖父が言っている気がする。
僕はなんだったのか、それはもう薄れてわからない。
けれど、おじいちゃんはいつも優しかった。
それだけは真実で。
何かをこえて、
僕とおじいちゃんはつながっていたんだと思うよ。

さぁ、山や川や風の中に、帰ろうか。


次へ

前へ

インデックスへ戻る