怪談:はな
はなひらく。
不思議な花を手に入れたんだ。
その花が開くのをいつも楽しみにしているんだ。
その花は、山で見つけたもので、
崖を降りたところに群生していたんだ。
鼻をくすぐる香りも、すてきだし、
かよわくもシャンとした、たたずまいも素敵だった。
うまく言えないけれど、
僕はこの花に恋をしたような気分になった。
ひとめぼれだと、なんとなく思う。
そのくらい、すてきな花なんだ。
とりあえず一株持ってきて、
とりあえず種類をネットを駆使して調べた。
どこにもない。
じゃあ、新種なのかな。
そもそも、山から植物持ってきちゃ、
いけないとか言われていたような。
でも、この花を見たら手元に置いておきたくなるよ。
かぐわしい香りを、一日に何度もかぎたくなるよ。
奇跡が起きてこの花は生まれたんだ。
そうとしか思えない。
学会に出す?
ありえないことだと思った。
新種のこの花は僕だけのもの。
誰にも見せないし、
誰にも渡さない。
微笑んでいるかのようなこの花を、
僕だけのものにして何が悪い。
ある日。
花の株が、見たことないつぼみをつけた。
つぼみはそれこそ長い化粧をするかのように、
ゆっくりゆっくり、育っていった。
どんな花をつけるのだろう。
今まで咲いていた花より素敵なのだろうか。
僕は待ち遠しくなって、顔をつぼみに近づけた。
近づけた、鼻から痛み。
つぼみが、意思を持ったかのように、
僕の鼻に刺さっている。
めりめりめり…
鼻が、ありえない力で開いていく。
痛みを訴えようとした口が、
もがこうとした身体が、
注がれた何かで力をなくしていく。
鼻はめりめり開いて、
僕の顔はすでに顔としての形をとどめていない。
薄れていく意識で思った。
これは、苗床を探していたんだ。
僕は花の苗床になる。
一目ぼれした花の苗床に。
すてきなことじゃ、ない、か。