怪談:ようふく
なんて素敵なお洋服。
私に似合う洋服なんてないと思ってた。
私は生まれつき太っていて、
似合う洋服は男性物ばかりで、
女性らしくなんて、絶対できないと思ってた。
女性らしく、ふわふわくるくるのお洋服。
ほっそりした女性たちには、
たくさんの服が用意されている。
私なんてどうせ、と、多少卑屈になっていた。
そんなある日。
雨のじとじとした日のことだった。
玄関のチャイムが鳴ったので、
私は玄関のドアを開いた。
そこには。
ずぶ濡れの洋服一着と、喪服を着た女性の、死体。
悲鳴はだいぶ後になってから起きた。
当然、警察に通報。
そして、喪服の女性の死体は、親族に引き取られたらしい。
ずぶ濡れの洋服は、
誰かが来る前に、洗濯機で洗った。
これは、私が着るべき。
そう思ったからそうした。
警察にも親族にも黙っていた。
洗って、部屋の中で乾かして。
誰にもばれていないはず。
私はその服に袖を通した。
ちょっときついと思ったのは最初だけで、
洋服はするすると私を包んでいく。
私はこんなに魅力的だっただろうか。
心なしか体型も細くなった気がする。
きっと不思議な洋服なんだ。
服を脱ぎ、やせたらどんな服を着ようかと思い描いて眠った。
次の日。
服は思い描いていたその通りの姿になっていた。
さらに魅力的に痩せた私の身体を、
服はするする覆っていく。
これは魔法の服なんだ。
ふわふわくるくるの服も、
スーツもドレスも、何だって着れるんだ。
私は部屋の中で、
痩せていく自分と、すてきな洋服で、
一人コレクションをした。
何でも着ることができる。
私はこんなにも美しい。
それから。
数日後。
部屋で見つけられた女性の死体は、
とても美しい喪服をまとっていたという。
しかし、その体は骨と皮ばかりになり、
生前ふくよかだった面影は、一つもなかったという。