怪談:とけい


狂った時計に価値はあるのか。

私はいつも時計に追われている。
部屋には時計が7個ほど。
家全体なら20を越える。
いつも時計を見て動かないといけない。
そういう家だから、そうしていた。
不思議だとは全く思っていなかった。

時計は狂ったら捨てる。
これも我が家のおきてだ。
電池を入れ替えても再生しない場合は捨てる。
時計は使い捨て。
多分私も使い捨て。

私は捨てる時計を、こっそり押し入れに入れている。
直らないかもしれないけれど、
時計が不憫な気がした、それだけ。
私も家族という中で使い捨てなんだろうなと思ったら、
時計が同じもののように思えたというのもある。
そんなわけで、私の部屋の押し入れは時計で満ちている。

狂った時計に価値はあるのか。
ないというのが我が家だ。

ある日のこと。
家の時計が全部狂った。
家族はめいめい、電話の時報なりなんなりで自分の時計を合わせ、
自分だけの時間で出て行った。
出勤とか、お出かけとか、登校とか。
そして、それぞれの理由で、
二度と帰ってこなかった。

私は、その日留守を任されていて、
ぼんやりどうするかなぁと思っていた。
帰ってこない理由が電話でいくつも連絡が来て、
私は応対に追われることとなった。

いろいろあって、生活が落ち着いて、
狂った時計や壊れた時計をどうしようかと思ったそのころ。
仕舞っていた時計は時を取り戻していて、
あの日すべて狂っていた時計も時を取り戻していて、
時の流れは正常に戻っていた。

私はひそかに、時計が反乱を起こしたと思っている。
いま、時計屋敷なんて呼ばれている我が家だけど、
お掃除と時計の調整は毎日しないとね。
誰もいなくなっちゃったけど、
時計が大切なのは、きっと同じだから。
大事に使わないとね、何事も。

狂った時計に価値はあるのか。
ないというと、時計が怒るよ。


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