怪談:でんせつ


伝説が残る。

伝説というものはすごい物から些細なものまで。
ひとつ淵があれば、
そこに何か伝説が残っているもので。
でも、僕らが生きているこの時代から、
何か伝説になるようなものは、残るだろうかと思いつつ、
僕はちょっとした淵に、伝説のかけらを見に行った。

深い淵だ。
ここで姫が身を投げた伝説があるという。
悲しい感じの伝説だ。
時代とかは僕もよく覚えてない。
江戸時代かもしれないし、もっと前かもしれない。
でも、姫という彼女がここに身を投げた。
悲しいことがあったのだろうか。
怒りをまとって身を投げたのだろうか。
それとも、生まれ変わりを信じたのだろうか。

「あの」
後ろから声がかかって、僕はそれなりに驚いた。
振り返ると、女性がいる。
姫の幽霊じゃないだろうな、と、一瞬思った。
「ここ、カッパが出るって伝説があるって本当ですか?」
「はい?」
僕は語尾を上げて尋ね返した。
カッパ?
そんな伝説きいてないぞ。

僕はとりあえず、スマホでこの淵のことをざっと検索。
でるわでるわ。
カッパ、落ち武者、姫、忍者、なまず、龍なんてのもあった。
何だってありなんじゃないか、この淵の伝説って。
彼女にその旨を話して、僕と彼女は大笑いした。

伝説は尾ひれがついて泳ぎだしてしまうんだろうか。
時代とともに、解釈が違っていってしまうんだろうか。
でも、あの淵のほとりは、
悲しい感じより、そこにいたいと思わせるものだった。

今考えた。
あの淵には、
目に見えないいろいろな精霊が住んでいる。
河童も姫様も、みんないる。
それが伝説になったら、何百年後はどうなってるのかな。
精霊淵とか名前がついてたりして。

とりあえず、
淵をのぞきこんだとき、
のぞきかえしてくる目があったことは、
僕の心にしまっておくことにした。


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