怪談:ごみ
どうせゴミ。
多少のうつ病にかかったことがある。
完治したなんて言える立場ではないけれど、
まぁ、ずっと付き合っていくものかなと、ようやく思えるようになった。
うつ病のさなかにあった僕と言えば。
何かと、ゴミだのクズだの言われ、
僕自身、それを信じなくちゃいけないように、
追い込まれていた、ような気がする。
そう、あのころ僕はゴミだったのかもしれない。
親は泣くし怒鳴るし、
僕は部屋の中、ゴミの積みあがったそこで生活した。
生活っていうのも変だな。
生きていく活動っていうのとも、なんか違ってた。
僕は、ゴミの方がまだ価値があると、本気で信じていた。
僕には価値がない。
ゴミ以下。
生きているだけ始末が悪い。
そんな環境だったから、
どうも、おかしなものも呼んだようで。
うつ病の薬の所為とは思わないよ。
ただ、ゴミが集まりすぎると、変なのも呼ぶんだなぁと。
それは、黒い服を着た人の姿で現れた。
ネズミかゴキブリの化身かと思ったけど、
驚くことに、ゴミの化身らしい。
「昔は黒い袋が一般的でね。すぐにゴミの化身とわかったものだよ」
僕は答えられなかった。
しゃべり方も、だいぶ忘れていた。
「君はゴミの方が価値があると思っているね」
僕はうなずいた。
「残念なことだ。君はどうしたってゴミにはなれないのだよ」
生きていれば人間、死んでも遺体。
どうしたってゴミにはなれない。
ゴミの化身はそう語った。
「狂っていると思われているなら、私と話そう」
「あ…」
「時間は山ほどある」
ゴミの化身は穏やかに微笑んだ。
「ゴミは捨てるもの。でも、こうして別の役に立てるのなら、それもいい」
ゴミの化身は言う。
これから僕は言葉を取り戻し、自分のできることを数えて、
自尊心を取り戻しなさいという。
そして、心が心地よくなったら、ごみをきちんと捨てなさいと。
傍から見ればぶつぶつと。
僕はゴミと語った。
誰も信じてくれないけれど、
ゴミは何よりも優しいんだって、僕は知ってる。
僕はゴミにはなれなかった。
でも、僕は人になった。そしてゴミを捨てた。
そういうお話。