怪談:どうぶつ


その動物を見たんだってば。

いつものように娘が落書きをしている。
クレヨンで大きな紙に。
いつもなら。何を書いているか見当がつくものだけど、
今日ばかりは見当がつかない。
わかりやすくたとえようにも困るのだが、
猫バスより訳の分かりにくい生き物っぽい何か。
猫バスとはアニメ映画の…あ、そこは説明しなくてもいいか。
とにかく、我が娘が何かわけのわからないものを書いている。

「これは、何をかいてるのかな」
「どうぶつ」
「どういう動物なのかな?」
「パパわかんないの?」
「ごめんねー、パパにもわかんないことあるんだ」
娘はニィッと笑って、
「これが頭、足はいっぱいあってね、しっぽが9本あって…」
説明されると、なるほどそんな風に見えてくるから不思議だ。
どこの神話にもない、我が子の動物。
これも一種の才能と納得しようとした時、
「今日の夜もきっと来るよ」
と、娘は言う。

私は年甲斐もなく、
その夜は眠れなかった。
あの動物が来るという。
娘は嘘をついたことがない。
娘はきっと見ているのだ。
私も見てみたい。
そして、娘と一緒に話をしたい。

いつものように川の字になって眠る。
動物の気配はあるものだろうか。
来るとしたら真夜中だろうか。

今夜は月が明るい。
寝返りを打って、耳を澄ます。
こんなにわくわくしたのはいつぶりだろう。

庭で、少しの物音。
いつもなら気にならない音に、
我が家の聴覚が一斉に刺激された。
パパである私と、娘と、ママも一緒になって、
そっと起きて、庭の方の窓へと向かう。
そーっとそーっと。

そこで見た、のは。

「パパー、お腹の色何色だっけー?」
「茶色と黒の縞々じゃないか?」
「違うわよ、白黒のぶちでしょ」
何とも噛み合わないものを私たちは見た。
我が娘はそれを絵にして、
『わがやのどうぶつ』というタイトルにして、提出したらしい。
理解されなくてもいい。
パパとママと娘で、確かに見たんだから。


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