怪談:せいかい
正解はどこだ。
私は、不正解が苦手だ。
ブーというビープ音。
あれがすべてを否定している気がして、
どうにも苦手だ。
私は正解に至れなかった。
それが自分の価値をがくがくに下げているような気がして、
自分が、もう、だめな人間になったんじゃないかと思わせる。
ビープ音ひとつ、それで、だめなのだ。
そんなわけで若いころからクイズの類は苦手だった。
だいぶ年を取った今でも、
クイズは苦手だ。
くわえてテレビも見なくなった。
テレビの話についていけない節はあるけれど、
苦手なんだからしょうがない。
全否定を楽しんでされるより、ずっといい。
ある日のこと。
天気のいい公園で休日を楽しんでいると、
子供が一人私のもとへやってきた。
古臭い服を着ているなと、その時はそれだけ思った。
「おじさん」
「なんだい」
「来週まででいいから、謎を解いてよ」
「謎を?」
なんでまたと私は思った。
「おじさんは、隠れた才能があるよ」
「そんなものはない」
「謎を解いたら、万年筆を返すよ」
「あ、それは、このっ!いつのまに!」
「それじゃ謎をおいてくね」
この万年筆で最初に書いた言葉。
その言葉であなたは何を手に入れたでしょう。
私は猛烈に考え始めた。
あの万年筆は…ずっと昔…
だから、子供が掻き消えたなんて、気が付かなかった。
私は一週間考え続けた。
万年筆にまつわる思い出を、全部ひっくり返した。
あれはどうしても取り戻さないといけない、
あれは、あれは。大切な、
不意に、考えが空になった。
心地いい空で満たされたような。
私は正解にたどり着いた。
指定の日に、私は公園にやってきた。
「解けた?」
「ああ、最初に書いたのは、愛してる。手に入れたのは私の妻だ」
「最高の答えだね。お見事、正解」
子供は私に万年筆を手渡して、消えた。
私は万年筆をもてあそびながら、
ビープ音のならない、クロスワードでもするかと考え始めていた。
むろん、妻と一緒に。
正解するのは、心地いいことだ。
考えるのをやめてはいけないね。