怪談:おふろ
お風呂に誰かいる。
普通のマンション、
私の家庭も普通。
普通の部屋で暮らしている。
小学生前の娘が最近、お風呂を嫌がるようになった。
言うには、
お風呂に変な人がいるから嫌だ。
とのこと。
変な人がかくれるスペースもないし、
私は変な人は見えない。
だから、なかば無理やりお風呂に入れていたけれど、
どうにも、気持ち悪い感じは抜けない。
お風呂の鏡にも、変な人がうつったためしはない。
じゃああれか、
娘には霊が見えているのか。
どうしたものだろう、そういう場合。
私は主人に相談した。
「都市伝説だけど、鏡がマジックミラーだというのがあるとか」
「マジックミラーののぞき?」
「都市伝説だと思うけどな、一応調べてもらおうか」
「娘が霊を見ている可能性は?」
「子供は多感だからね、いろんなものを見ているかもしれない」
「どうしよう…」
「まずは、お風呂好きになってもらおう。そのため、変な人には帰ってもらおう」
「ええ」
管理人立会いの下、鏡は徹底して調べられた。
何も出てこなくて、とりあえずは良かった。
盗聴盗撮もろもろも調べた。
一応なにも出てこなかった。
そして、主人のつてでお坊さんが呼ばれることになった。
なんでも、学生時代に同じクラスで仲が良かったらしい。
明日来るということなので、
今日一日、娘には我慢してもらうことにした。
私と一緒にお風呂に入ると、
何とも言えないざわついた感じがする。
娘が感じているのは、これか。
私は頭を洗うと、鏡を見た。
好色そうな親父がにやにや笑っていた。
ふつふつ怒りがこみあげてきて…
「くたばり直せ!エロじじい!」
と、鏡に向かって鉄拳をお見舞いしようとした。
娘に止められて、鏡を壊すようなことはなかった。
翌日、お坊さんが来た時に顛末を話すと、
お坊さんは何か感じたのか、
「お母さんの気迫で、怖くなったそうです。どんなこと言ったんですか?」
「え、その…」
「この霊は私が持ち帰って供養します。安心してください」
そして、娘はお風呂が好きになった。
が、くたばり直せなどという言葉を教えてしまったのは、
返す返すも失態だと私は思っている。