怪談:未来永劫読書術


私は読書が好き。
読書をしていると、
私の中に、読んでいる本の世界が、
立ち現れるのが好き。
かっこいい主人公のヒーローだったり、
推理を巡らせる探偵だったり、
けなげなヒロインだったり、
そして、その登場人物が生きている世界だったり。
読書は私に世界を作らせる。
本の中の世界を、私の感性で作った世界を。

どんな本も、読めば終わってしまう。
私は、読み終わったその時に、ため息をつき、
そして、ある種の虚無に似た感覚を持つ。
まるで、海に作った砂の山が、
満ちる波にさらわれるような。
想像の砂で作った世界は、
本を読み終えたその時、海に帰ってしまう。

ずっとずっと、読み終えられない本があればいいのに。
それこそ、未来永劫。
私の命が尽きても、
ずっとずっと、いわゆる魂だけの存在になっても。
読み終えることのない本があればいいのに。

ある時。
私は一冊、本を読み終えた。
目を閉じて、余韻に浸る。
私の内側の海岸で、
砂で作られた私の世界がさらさら波にさらわれる。
いつもの虚無。
でもその時、私は気が付いた。

海が呼んでいる。
「陸ここに終わり、海始まる」
私はそんな言葉を思う。

海は語り掛ける。
あなたの読む世界が、やがて、この海に命をともす。
海はあなたの外だけでなく、
あなたの内にもある。
この海に、命を、進化を、世界を、宇宙を。
あなたの読書は、
この海に始まる世界を作っている。

どうか、本を読んで、未来永劫魂だけになっても。
あなたという惑星に、命をともすために。

読書の幻だろうか。
それでも私はうれしかった。
私の内側にいつか命がともる。
言葉から生まれる命。
私はこの海にまた言葉を返す。
未来永劫。私の意識が魂だけになっても。
私の読書は、このためにあったんだ。


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