怪談:慢性笑い話


俺が思うに。
笑いっていうのは急性のものが出回ってるなと思う。
慢性的に笑うっていうより、
爆発するような笑いのほうが出回ってるなと。
慢性的な笑いっていうのも表現しづらいけれど、
例えば、だ。
日常的に話す言葉が、
全部笑い話として聞こえるようになったら。
慢性的爆笑症。
考えるだけで恐ろしい病気だな。
だから笑いは一度爆発して、収束するようになるんだな。
ずっと何しても面白く笑えることって少ないと思う。
まぁ、俺はそんなことを思うわけだよ。

で、慢性的爆笑症。
俺の相方がそれになっているような気がする。
俺の身の上、若手お笑い芸人。コンビ組んでる。以上。
まだまだ売れないんだけど、
相方は俺の笑いのセンスを信じていて、
いつか俺たちで売れるようになろうぜって思ってる。
そうして頑張っている中、
相方はそんな病気になった。
俺がなにを言っても爆笑する。
最初はネタを合わせる練習で。
徐々に爆笑頻度は増えていって、
今では日常の会話をしていても爆笑する。

コンビニでおにぎり温めるの忘れた、とか。
トイレが臭くてありえねーと思った、とか。
やっぱり高校生は若いなぁ、とか。
とりあえず思ったことをぽつりと言っても、
相方は爆笑する。
何がツボに入るのかはわからないけれど、
相方は俺の話に爆笑する。

そして。
俺たちは、あるステージに立つことになった。
何かつかみがあるわけじゃない。
けど、芸人としてやっていくには、
観客を爆笑させなくてはいけない。
舞台袖で、俺は緊張していた。
相方は何も聞かず、一言、
「俺に任せて」
と、言った。

舞台に出て、俺が挨拶、
「どうもー」
「慢性的爆笑症でーす」
俺は驚く。相方の言ったそのコンビ名は、
今まで俺たちが使ってきたものではない。
「いやー、最近ですねー」
俺がネタを始めるが、
相方はネタを遮ってピンポイントで面白いところで爆笑する。
可も不可もない漫談ネタが、爆笑の狙撃で打ち抜かれる。
相方は爆笑を武器にしている。
ならば俺もこの舞台で戦おう。
俺の渾身の漫談、相方はそれをうまく爆笑に切り替える。
観客は最初こそ戸惑っていたけれど、
相方の豪快な笑いに、
引き込まれて会場は大爆笑になる。

「どうもー、ありがとうございましたー」
俺たちは舞台から引き上げる。
会場から万雷の拍手。
その中に、相方から出て行った「何か」がいた。
笑い疲れたんだな、と、俺は思った。


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