怪談:ブーイング予言


予言。文字通り、あらかじめ言っておくこと。
預かる方の預言は、神様から預かった言葉のこと。
だから、たぶん二つは違う。
あらかじめ言っておく予言。
未来予知みたいなものなのかなぁとぼんやり思う。

20世紀末。
ノストラダムスが予言していたから、
人類は滅亡するとかなんとか。
当時子供だった連中を恐怖のどん底に落とした。
思うに。
予言の日がノストラダムスの生きている時代でなくてよかったと思う。
遠い遠い予言だから、
21世紀を迎えることのできた連中から、
大ブーイングを食らうことがなかった。
賢いのか何なのか。
そういう予言する人間の考えはわからんね。

僕は、女性予言者のアシスタントをしている。
彼女自身も物静かだけど、ちょっと異端者っぽいところがある。
予言なんかできる人は、そういうものなんだろうなぁと思う。
占うというより、未来を見る感じのことをしている。
僕が思うに、彼女の見る未来の可能性は、
いくつもあるようなんだけど、
彼女の予言は、ある未来への縁を強くする。
その未来への可能性を強くする。
僕はそう思う。

身分を隠したり、お忍びできたり、
いろいろなお客に彼女は予言する。
そしてお客が帰った後、
彼女は少し疲れた顔で、
僕にちょっと弱音をいう。
これでいいのかなぁ、とか。
こんな未来を喜んでくれるかなぁ、とか。
時には涙もある。
彼女は予言するには心が脆いと僕は思う。
アシスタントの僕は、そんな彼女を支える。
手を取り、大丈夫を繰り返す。

僕は彼女のアシスタント。
僕も未来が見える。
お忍びで来た政治家の失脚もしっかり見える。
芸能人の破局も見える。
株価の急変動も見える。
僕は何もかもが見える。
彼女の予言が当たらないものもあること、
そして、当たらなかったその時、
ブーイングを彼女に向ける余裕が、彼等には到底ないこと。
僕はそれもわかる。

彼女は凄腕の予言者。
当たらなかったと文句を言うものはいない。
だから彼女は、予言が大変でも大丈夫。
僕がいるから。
すべてをあらかじめ知っている僕がいるから。

彼女には、ブーイングは一切ない。


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