怪談:ひとこと多いルームメイト
私のルームメイトは、ひとこと多い。
ひとことの手前で話を終えてくれればいいのに、
何かひとこと多い。
それがもとでトラブルもあったし、
友人が減ったりもしたらしい。
それでもひとことを我慢することができなくて、
ひとことを付け加えてしまう。
病気なのかな。
私もそのルームメイトのひとことに、
イライラを感じることもある。
「あなたの彼氏、スタイルいいけど頭薄いね」
とか、
「あそこの料理食べに行ったんだね、まずくて評判だけど」
とか。
その都度イライラを感じてはいるが、
そういう人なんだから、しょうがないと半ばあきらめている。
ある時。
夕方に大学の講義を終えて帰ると、
ルームメイトは珍しく帰ってきていなかった。
連絡も来ていないし、
いい大人だから詮索するのも何かと思い、
特に連絡もせずに晩御飯を作って食べる。
片づけを終えて、パソコンを相手にすること数時間。
玄関をノックの音。
「やれやれ」
やっと帰ってきたかと玄関を開ける。
そこには、ずぶ濡れのルームメイト。
「雨でも降ってたの?」
私は尋ねる。
ルームメイトは首を横に振る。
「とにかくシャワー浴びたら?」
私は言いながらルームメイトの身体を見て、
右手で視線が止まる。
そこには、
真っ赤に染まったナイフ。
私は絶句する。
「刺したんだ」
ルームメイトは言う。
「妻がいるから、この関係をやめようっていうから」
「その人はどこに?」
「ラブホのシャワールーム」
私は混乱する。
何から片付けたらいいか。
「だいたいさぁ」
ルームメイトは大声で話し出す。
「向こうが妻の愛情がなくて寂しかったっていうからさー」
大声は調子っぱずれで。
「どう頑張っても、お金しか取り柄がない男なんだからさー」
頬に光るのは水か血液か涙か。
「馬鹿な男よね。困った果てにあたしを刺殺したなんて」
私ははっと耳を疑う。
気が付くとそこには、血の混じった水たまりひとつ。
救急車とパトカーのサイレン。
どこへ行くんだろう。