怪談:絵葉書の約束


いつか本当の空を見に行こう。
遠くにいる親友からの絵葉書。

私は返信を送るため、
近場の観光名所に赴いては、
この町の絵葉書を彼女に送る。
なかなか遠出もできないし、
観光名所にあちこち行けるわけでもない。
でも、彼女からの絵葉書はうれしい。
彼女の感動や興奮を感じられる気がして、
そして、いつか、
彼女と一緒に本当の空を見たい。

私はいつもの通勤で、
町を歩けば電線で区切られた空、
列車に乗れば窓枠の四角い空、
ビルに裂かれた空。
こんな空じゃない、本当の空を思う。
朝日の中を出勤し、
星の見えない中を帰る。
そして、郵便受けを見て部屋に戻る。

届いていた絵葉書一つ。
美しい空と、きれいな緑、山だろうか。
そんな写真の載っている絵葉書。
宛名面には私の住所、
その下に、
「ここで待ってるよ」
今回の彼女の一筆は、それだけで、
手掛かりは何もなくて、
先に本当の空を見つけたのかなと、
がっかりと、その空を見たいというのと、
追いついてやりたい。
そんなことを思った。

私は、登山できる程度の準備をして、
休みの度に山に登った。
彼女の絵葉書を持ち、
同じ緑、同じ空を探す。
空の中、山に抱かれ、
自分がちっぽけだということを感じる。

いくつも山を登り、
空を見て、
あれ以来、親友の彼女からの絵葉書は来なくなった。
実質最後の絵葉書を手に、
ある山に登った。
その山は、親友も含めて、
学生時代の行事で登った山だ。
山を登ると、思い出が走っていく。
一緒に登って、つらい時こそ笑いあって、
親友だ。初めてそう思ったのもここだったんだ。

私はわかった。
登頂して、親友と一緒に見た空。
あの空だったんだ。

今、登頂して、あの時と同じ空を見ている。
「約束だもんね」
そして、私はわかっていた。
待っているといった親友は、
もうこの世の人ではない。
この山の山頂付近から、
滑落した人がいるはずだ。
そう、その新聞記事を、私はとっくに読んでいた。
待たせたけど、やっと約束を果たせたよ。

ああ、本当の空だ。


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