やさしい季節


私が、春といえば春。
あなたは私を否定しなかった。
私が、春といえば春。
どんな季節であっても、
私が春と言えば、あなたにとっても春だった。
ひどく優しすぎるあなただった。

落ち葉はかさかさと。
気候は涼しいくらいで、
私は少しずつ厚着をしてきていた。
「今は春よね?」
私は、あなたに向かってそういう。
「うん、君が春と言えば春だ」
あなたはひとつも否定しなかった。
「落ち葉でなくて桜の花よね?」
「君がそう感じればそうなんだよ」
「北風でなくて南風よね?」
「そうだね」
戯言のように繰り返される私たちの会話。
あなたはひとつも否定しなくて、
私は、春が来ていると言葉を続ける。
「私は、春が好き」
「うん、春はいいね」
私だってわかっている。
踏みしめる落ち葉は桜の花ではなく、
北風はどうやっても南風にならない。
私は厚着をしているし、
あなたも春の服ではない。

悲しいくらいやさしい季節だ。
否定しないことで、あなたは好意を見せている。
私はそれに目を閉じて、
春のよさを語り続ける。
あなたはそれをひとつも否定せず、
うなずいて聞いている。

「だからあたたかい春が好き」
「そうだね」
私はくしゃみをひとつ。
自分自身が少し寒いのを、
がんばって忘れようとしていたのに。
そんな私に、あなたは、私にジャケットをかけた。
「少し、涼しすぎるね」

あなたははじめて、春でない意味合いのことをいった。
あなたがはじめて行動で示してくれた好意だった。
あなたは、私とは違う存在なのだと。
肯定しながら、あなたもまた、いろいろなものを見ていて感じていたと。
私はようやく思い至って、
ジャケットを握り締めながら、訊ねた。

「あなたの季節は、今、何?」
あなたは困ったように笑った。
「少し涼しい季節。落ち葉が舞い、人に優しくしたくなる季節」
「あなたの季節を聞かせて」
「たいした物は見ていないよ」
あなたは私の頭をなでて、
「どこか、あたたかいところでお茶でも飲もう」
「そうね」

秋の道を私たちは歩く。
あなたがくしゃみする。
お茶を飲んで、本当の季節をもう一度話そう。


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