ゲーセンと雨
「春雨じゃ、濡れてまいろう」
じいさんの台詞を俺はなんとなく思い出す。
雨は、嫌いだ。
粋もへったくれもないんだ。
俺はゲーセンに通いつめてる廃人。
格闘ゲームが好きで好きでしょうがない。
ワンコインで仮想の命かけられるのが好きで。
真剣勝負が出来るのが好きで。
うるさいゲーセンの中、
決闘できる場所があるのが、すごく嬉しいんだ。
生きているときに、生きているなぁって感じるのは、
実は難しいと思うんだ。
俺は、ただ、格闘ゲームが出来ることが嬉しくて、
そこから離れたとき、ああ、俺あそこで生きていたんだなぁと。
過去形になって思う。
ゲーセンから出ると、高い確率で雨が降る。
俺、雨男なのかな。
傘は盗まれているし、クソッタレと思う。
雨宿り決め込んでいると、
隣に俺くらいの男が、やっぱり空を見ている。
まもなく、俺に気がついて、話しかけてきた。
「はんぺーたさん?」
「ああ」
俺のゲーセンでの名前だ。はんぺーた。
「俺、わかります?さっきシャウト使いだった」
「あー、チュージか」
笑えることに、何度も何度も対戦していたやつの顔を、
俺はひとっつも記憶していなかった。
そうか、チュージはこういうやつなのか。
俺はなんだかおかしくなった。
「すごいですよね、はんぺーたさん」
「あん?」
「あの間合い見切られるとは思わなかったです」
「チュージは、ブレイクのタイミング虎視眈々してたろ?」
「あ、わかります?」
俺とチュージは、げらげら笑いながら、さっきの対戦をお互いに語り合う。
楽しい。
拳で語り合うのも楽しいけれど、
なんだかげらげら笑えてくる。
「どうします?はんぺーたさん」
「あん?」
「雨、やみませんね」
俺は、なんだか台詞を言うときの気がした。
「梅雨だから、濡れてまいろうぜ!」
「梅雨だからってどういう理由ですかー」
「青春はなー、青い春なんだぜ!」
「訳わかりません、はんぺーたさん!」
俺たちはげらげら笑いながら、梅雨の土砂降りを走り抜ける。
粋もへったくれもない。
でも、生きてる。
ゲーセン通いの青春って、そういうものなんだぜ。