美しい花の景色


私は大地に沈み、花の景色を見ている。
これは、大地の見ている記憶なのか。
それとも、いずれやってくる季節の希望なのか。
大地に沈み、花の景色を垣間見る。
白い白い花の季節。

私は埋葬されたのだろうか。
それとも何か違う気がする。
ただ、沈んでいって、白い花をたくさん見ている。
きれいな白い花が、いくつもいくつも。
いずれ色をつける花なのだろうか。
色がついたらさぞかし美しかろうな。

満開の桜もきっと色がなかろう。
白い桜ではさびしかろう。
季節の花が白だけではよくなかろうと私は思う。
私に色はないものだろうか。
私の色、赤い、血液、が。
ぎゃくりゅう、して、そと、へ

気がつけば、白い花たちはなくなって、
私は、白い天井を見ていた。
ありきたりな話を私は聞いた。
雪山で遭難。
他人事のようにそれを聞いた。

だから私は大地に沈んでいったのか。
奇妙に私は納得する。
白い花はとてもきれいだったのに。
どうして私は赤を混ぜようとしてしまったのか。
桜はそればかりではないだろうに。
美しさは、何も春のピンク色だけではなかろうに。

窓の外はまだ白く。
白い季節が健在であることを知る。
望まれていない白い季節だろうか。
そうでもあるまい。
少なくとも、白の百花繚乱の花を見た今、
私は、もう少しそこにいたかったとすら思う。

私は、白い花の季節にとらわれたのかもしれない。
どこまでも白いあの景色。
私の血液は、きっとあの時、
逆流して桜の糧になったのだ。
春は桜がきれいに咲くだろう。
けれど、私の心は、白い季節にいるのだろう。

春に白い花が咲いたのならば。
私はその花に会いに行きたいと思う。
そうだ、今は亡き妻にあったのは、春の季節、
何十年も前の春に、
白い花の下で会った。

白い花。
一体何と言う花だったのだろう。
妻は記憶の向こう、白い花の下で微笑んでいる。
まだ、こちらに来るなといっているようで、
私は、少しさびしかった。

白い雪の季節。
私はまだ、冬の中にいる。


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