卒業


私はまだ、卒業できないでいる。

おもちゃ、まんが、ぬいぐるみ。
物置を探していたら、そんなものがたくさん出てきた。
私がとっくに卒業したもの。
てんつくてんてんするサルなんて、
何が楽しかったんだろう。
でも、覚えている。
このサルが太鼓を叩くと、
とても楽しい気分になれたこと。
もう、卒業したもの。
今まで、ありがとう。

次のダンボール箱を開く。
紙の山で結構重かった。
作文が山のように出てきた。
テストもある。
あー、ひどい点を取ったのも残ってる。
これもみんな、私の足跡。
そして、私が卒業したもの。
分別していたら日が暮れちゃうな。
今の私が決して書くことのできないもの。
捨てるには惜しい。
でも、卒業したもの。
この箱は保留にしようか。

結局。
卒業すると、楽しいことしか思い出せないことがわかった。
物置の掃除はぜんぜんはかどらなくて、
むしろ、しみじみして泣けてきた。
何でこんなものを残していたんですか。
お母さん。
何で、こんなガラクタを残していたんですか。

私のらくがきなんて残さなくていいじゃないですか。
テストなんて山ほどじゃないですか。
どうして、こんなどうでもいいものを残しているんですか。
どうして、あなたのものがこんなにも少ないのですか。

私は、あなたから卒業しなくてはいけません。
卒業証書は要りません。
あったら、未練が募りそうです。
証書代わりに、お掃除日和の秋風だけで結構。
あなたが呼んでいる声がします。
私は涙をぐしぐし拭いて、
精一杯明るく返事をします。

お母さん。
あなたに近づくほど、
あなたの背中が小さいと感じるようになりました。
昔はあんなに大きな背中だったのに。
私を背負ってもあまりがある背中だったのに。
とても居心地のいい背中だったのに。
でも、だからこそ。
その背中を越えていくことは、今の私には無理そうです。

あなたから、卒業は、なかなか出来ない私です。


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