ハルが来る


メカニックの彼は、
ナビの少年と会話をしている。
サブドライバーの少女は、面白くなさそうに聞いている。
メカニックの彼は、少女の頭をグリグリとして、
「そんな顔しないの」
と、やさしく諭す。

メカニックの彼は、ひょりとした青年。
そばかす顔で、おそらくいつもニコニコしている。
ナビの少年は、小さな身体で、ハムスターのようだ。
今もじっと地図を見ている。
少女は、ツナギを着て、不満げな顔をしている。
メカニックの彼は、少女が不満げな顔をする理由をよく知っている。

「ハルが居座るから」
メカニックの彼は、そっと言う。
少女ははっとする。
そのあと、メカニックの彼をにらむ。
「…フユさん」
「なんでしょう?アキさん」
フユと呼ばれたメカニックの彼は飄々と。
アキと言う少女は、にらむだけする。
迫力が足りないなぁと、フユはいつも思う。

「フユさん、地図のここ、ショートカット出来ますか」
「ナツが出来ると思えば出来ますよ」
「あんたら、そういう無茶な注文して、ドライバーがいつもいつも」
アキが少しばかり愚痴ると、
「でも、ハルさんならできるんですよ」
フユはさらりと。
ナビのナツは、おろおろとする。
アキはくちびるをかむ。
実力がまだ届いていないことを知っていて、
認めるしか出来なくて。
その悔しさはバネになる、と、ハルは言っていたけれど。
さて、アキさんはどこまで飛べるかなとフユは思う。

「さて、そろそろハルさんが来ますよ」
正式なドライバーの、ハル。
彼がいるからこのチームは回るし、
彼がいるから、どんな道も走れる。
そして、彼がいるから、アキはまだサブドライバーだ。

ドアが開いて、
ツナギを着たハルがやってくる。
部屋に入るなり、くしゃみひとつ。
「外はまだ寒いですか?」
フユが問えば、
「当たり前だ、何月だと思っている」
「それでも、春は来るんですよ」
フユはにっこり笑って。
ハルは、いつもの無愛想な顔を崩さずに。

「コースの確認をするぞ」
彼らの作戦会議が始まる。
その傍ら、ストーブがフル稼働している。


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